Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

初めて口にする

2009-05-01 19:17:32 | 農村環境
 わが家に住み始めて13年余になるが、当初はわが家の敷地内で畑作物が採れればという妻の望みで、宅地とともにわずかではあるが畑を敷地内に持てる場所を永住の地として求めた。このような条件の土地はなかなかなかったのだが、妻の条件であったことからこれは最優先のものとなっていた。ところが住み始めてからというもの、周辺が果樹園地帯ということもあって毎日のように消毒が行われることに住んでから気がついたしだいで、もともと農薬などはあまり利用していなかった妻の「農」の領域からいけば、ちょっと違和感のある空間ということになったわけである。妻はもともと実家に農業をしに通っていたこともあり、この地で野菜を作ることを諦めたわけである。したがってそれほど広くはないわが家の畑は、ただただ雑草のためのものとなり、その畑の草を取るのがわたしの休日の仕事となったわけである。

 できれば敷地内に野菜ができるという環境をわたしも望んでいたわけで、妻が「ここでは作らない」と言ったときには「それほど気にしなくても…」と思ったことも事実である。ところが妻の主張を承諾したのは、隣接するかつては果樹園であった荒廃地に咲くタンポポを見たからである。そこにはこの季節、見事なタンポポが咲いたのである。一面タンポだらけの畑は、いわゆる「絵になる」風景であった。しかし、そこに咲くタンポポの茎の直径は5センチはあろうかというもので、平たく帯のようになったものであった。もちろんわたしが見たこともないタンポポであり、こんなお化けのようなタンポポが世の中にあるのだということを知ったのである。その後よそでそのようなタンポポを見たこともなく、隣接するその土地も毎年タンポポを咲かせはするものの、それ以降お化けのようなタンポポを意識することはなかった。いずれにしても突然変異ともいえるようなそのタンポポに、どう見ても異常な世界を察知したのである。それが具体的にどうだとは言えないものの、普通ではない空気を感じたのである。ここで野菜を作らなければならないという差し迫ったものもなく、当面は野菜を作ることはしなくても良いと判断したわけである。

 この春、駅へ向かう道の途中で、宅地の脇に咲いているタンポポに久しぶりにお化けタンポポを発見した。すっかり普通のタンポポばかりになっていたこの空間に、お化けのタンポポがまだ残っていることに少し複雑な思いを抱いたが、わが家の周辺からはすっかり果樹園が姿を消してきていることも事実。それこそ15年ほど前のこと、現場で見つけたコゴミの群生地から株さら持ってきてわが家の敷地内に移植したが、それ以来一度も口にしたことはなかった。同じころ妻の実家の畑の土手にも同じものを移植したのだが、近年腐りが出てきて絶えてきてしまった。山菜採りに行く余裕もないなかで、今年わが家の敷地に生えているコゴミを初めて口にした。当初の目的以降、初めてこの敷地内で採れたものを口にしたことになる。「自分で料理して」と言っていた妻が、とりあえず料理をするところまでは打ち解けたが、まだ区とにするところまではいかない。長年土壌に降り注いだ消毒がどれほど消えたかは解らないが、自らの余生を勘定しながら「もういいか」といった感じに妥協する時期がそろそろやってきているということになるだろうか。
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