Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

厳しい空間を作り上げたもの

2009-05-11 12:34:25 | 農村環境
 「割に合わない」土地、そんな土地を懸命に耕作してる妻のぼやき。昨日触れた土手の草刈りはまさにそれをわたしにも教えてくれる。しかしながら解っていて大昔に手に入れた土地なのだからそれも宿命かもしれない。大きな土手下の道路はもともとはなかった。車を利用するようになると車が当然のように集落に入れないと困るため、新たに道が開かれた。この道路の下にさらに大きな土手がついているが、その土手も道路のあるところも、もともとわが家のものだったという。そして道路は村のものとなったが、道路下の大きな土手は村のものとはならずにわが家のもののままである。ところが道路の土手が崩れれば復旧は村がやってくれる。機能上はほとんど道路のものなのに所有は個人なのである。こういうケースは当たり前のようにたくさんある。このように土地を持っていても土手ばかりということになる。

 この昔のままの整備されなかった空間にもほ場整備の話がかつてあったという。自分の家の田んぼまで車がいけないほど道が狭いどころか、道すらなくて人の土地を通っていかなくてはならないような状況ではいずれ問題も起きる。当然のこと耕作を続けていくには必要不可欠なものである。空間を構成する耕作者の間で整備へ向けて同意したにもかかわらず、同じ空間で比較的道沿いに土地を所有していた人が「うちはやっても必要がないから」といって反対したという。反対したというよりも整備したいという意向を役場にあげなかったのだろう。なぜならその反対者が当時区長をしていたという。いわゆる昭和40年代から50年代はほ場整備が盛んに行われた。そして道路が狭いところではほ場整備は行われなくとも道路整備が行われた。それを行わなければ後の時代に暮らせない空間になるという危機感は誰しも持っていただろう。そんななか、自ら金をかけて整備をしてあったり、あるいは前述のように条件のよいところに土地を所有している者には迷惑な話だったのかもしれない。しかし、少しばかり考えれば解ることなのだが、自分がそこに加わらないことで地域社会のトータルな整備は遅れる。いや遅れるくらいなら良いが、妻の実家の空間ではそのまま過去を引きずっている。今更ということになるが、その思いがこの空間を形作ることになる。

 当時反対した人は、車道を広げるという話が集落内にいくつかあったとき、自分は通らないといって負担を逃れたことが何度もあるという。道沿いの条件の良いところにかたまって耕作地があったためにそれを逃れる言葉を使ったのである。その人の土地に隣接して奥の水田に入る細い道があった。奥に所有している3軒で道を自力で広げたというが、入り口のいつも反対する人は「自分は使わないから」といって協力しなかった。ところが世代が変わり今になれば息子は使っている。そのことを知る人も少なくなったのだろうが、思いは複雑である。「言っても無駄だから」と思うが、結局時代を経ることでそういうことも忘れられていくが、この地域を作り上げた歴史はそんな思いが関わっている。

 ちょうどほ場整備の話があった時代、この地域で豪雨災害が起きた。三六災害(昭和36年梅雨前線豪雨)以来といわれるようなものだったが、その災害で妻の実家のすぐ下の家の元の屋敷は崩落した。現在地からは数百メートルほど離れた場所にあったのだが、予期していたわけではないが、災害の起きる少し前に危険箇所だからということで補助金をもらって移転をしたという。自分の土地で車道に隣接している場所は、妻の実家の下くらいしかなかったのだろう。しかし屋敷にするには少し狭かった。今でもその狭い土地に暮らしているが、もしほ場整備が実現していたら、きっともっと良い条件の土地に家を造ることができたはず。現世帯主はどこまでこの地域の経過を知っているか解らないが、ほ場整備が実現していれば耕作地はすべて車道に隣接することになったし、災害危険箇所という理由から整備された土地に家を建てることも可能だっただろう。そしてそういう条件が後々その家に跡取りが暮らしてくれるかどうかという条件にもなっていく。もっといえばその地域空間が維持されていく条件整備は個人のものではなく、トータルなものだったということにもなる。いずれにしても区のトップにいた人の考えがこれほど条件の悪い空間を作り上げてしまったことは事実なのである。妻は言う。「それを暴けなかった地域のほかの人たちが馬鹿だった」と。この空間の現在が、人の思惑で左右され、そしてそれぞれの思いの中に歴史化していることを思うと、やはり地域とは簡単には語れないものなのだと思うばかりである。
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