Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

ふとんを踏むな

2007-10-22 23:18:43 | ひとから学ぶ
 夏場はそうでもないのだが、こたつが登場して、ふとんが部屋の中で畳の上を席巻するようになると、必ず妻に注意されることがある。「ふとんの上にモノを置かないで」とか「ふとんを踏まないように」というものだ。なぜそうしてはいけないのか、というところについて説明しないと解りづらいだろう。モノを置かない、というものは、ようはふとんが汚れないようにという意味だ。もちろんふとんに覆いが被せられているから、それほど気にすることはないじゃないか、ということになるが、家の中のこうした道具を守っている立場としては、できうる限り汚れることは防ぎたいし、ふとんは床とは違うのだから、埃を保ちやすい。というこで「大事」にしたいということがその根本にある。

 ふとんを踏まない、というのも同じような意味である。踏めば踏むほどに綿はつぶれてしまう。歩く場所は畳の上、ふとんの上は歩く場所ではないのだ。

 よく外出の際に利用するバッグや道具を、同様にふとんの上に置いたりしても叱られる。意図は同じなのだが、とくにこうした持ち物は、人様が歩く地面や床に置かれることはよくある。電車に乗っていても混雑していれば床に荷物を置く。そんな荷物は時には、座席の上に置かれる。場面を置き換えてみれば、地面も人様が座る座布団の上も同じ空間ということになる。どこに置かれたともないものを、ふとんの上に置くのは「汚い」ということなのだ。高校生の様子をうかがっていれば、まさにこの両者はそう変わるものではなく、荷物を地面に置くのもさして気にはならないようだ。きれい好きな日本人なのではあるが、床と居室の床が同一の空間になってしまっていることに気がつく。かつてのように、畳が主流の居室暮らしだとしたら、両者には違いがあるのだろうが、住宅環境も変化して、今や畳の部屋を日常的に利用している家庭は少なくなったはずだ。もちろん年配の方々は畳の暮らしを望むだろうが、若い人ほど床暮らしである。現代の高校生が両者の空間に意識の違いを見せないのも、ふだんの住宅事情があるのたろう。

 妻に言われるばかりではなく、子どものころ母にも同様のことを言われた。どうしても男のように、家庭内の道具に気を使わない類にはそんな言葉を鬱陶しく思うわけだが、それも致し方ないことだ。しかしそうした言葉が、時おり聞こえてくるのも毎日のように言われた躾だからである。よその家はどうされているのか定かではないが、かつての女たちは、それほどまでに〝ふとん〟に思い入れがあったのだ。それは、そうしたものが嫁入りの道具であったということも忘れてはならない。
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