東大総合図書館 制作記

2020-11-28 11:51:50 | 作成日記
お久しぶりです。せきしょーです。

今回は、東京大学の総合図書館を制作したので、その紹介記事になります。後半は比較的細かい部分の話が多いので、なんだか色々工夫しているんだなーと思っていただければ幸いです。

今回は、僕が作品の統括と土台などの設計を担当し、さくらもちくんが総合図書館の設計を担当しました。




さて、今回作製しました総合図書館ですが実際の見た目はこんな感じです。



(僕のスマホの画角では全体を収めるのは難しかったので見切れていますがご容赦いただけたらと思います。)

画像を見て気がつく方もいると思いますが、建物の見た目は、同じ構造の繰り返しになっています。繰り返し構造のある作品は、それをうまく利用することで設計や組み立ての作業量が減るため作りやすいです。今回も繰り返し構造が多いので作りやすいのかなと思ったのですが、物事はそう簡単に思い通りに行かないですね。かなり苦労しました...

以下、それぞれの部分について紹介していきたいと思います。

まずは土台から。
プレートで下地を作り



ブロックを積んで、



プレートとタイルを貼って完成です。



中央のくぼみは図書館前広場にある噴水を設置するために開けてあります。また、噴水周りのベンチも再現しました。

続いては噴水です。
こんな感じで同じものを4つ作り、



くっつけたら、



完成です。



もう少し細かいところまで表現できれば良かったのですが、この大きさではこれが限界でした。
最後に土台に噴水をはめ込んで、公園前広場の完成です。



一応噴水の底の模様などもタイルの色を変えることで表現してみたのですが、あまり見えないですね。普段のレゴ部の大型作品では、土台が四角いものが多いですが、今回は広場が単調な雰囲気になってしまうのを避けるために、土台を扇型にしてみました。また、タイルで石張の舗装を、プレートでコンクリートの表現をしてみました。


今度は図書館側の土台です。
こちらも先ほどと同様に、プレートとブロックを積んで、



プレートとタイルを貼って完成です。



さて、いよいよメインの総合図書館の組み立てです。設計や組み立てにかなり苦労したのですが、細かい話なのでまずは完成していく様子を。
繰り返し構造を意識しながら組んでいきます。
プレートにスロープをつけて、



それを固定する部分を作り、



先ほどのパーツで挟み込むように固定すれば、繰り返し部分の完成です。



透明のパーツの高さが、正面と側面で0.5プレートずれていますが、まあそこまで気にならないですし、これを解消しようとすると、かえって全体のバランスが悪くなったり、強度が弱くなったりしてしまうので仕方ないでしょう。
これを4つ組んで、間の柱を組んで接続すれば、





向かって左側の部分の完成です。
裏側はこんな感じです。



正面のシンプルな見た目からは想像ができないほど入り組んでいます。なぜこのような構造になったかとかはまた後ほど設計者のさくらもちくんに語ってもらいたいと思います。
反対側はこれと同じものを左右反転させて組むだけなので割愛します。

最後に正面部分です。これも基本的には先ほどと同様の組み方をしていきますが、繰り返しの数が違っているので、見た目は変わりませんが裏側はそれなりに変わってきます。

先ほどと同様の構造を色を変えて組み、



これを5個組み合わせれば、



正面部分の完成です。
横から見るとこんな感じです。



裏側はこんな感じです。



入り組んでいるので組むのがかなり大変でした。

最後に玄関部分です。ここは制作の過程を撮影するのを忘れてしまったので、完成した状態を。



スロープと呼ばれる三角のパーツを使って入り口のアーチを再現しています。

さて、全てのパーツが揃ったのでこれらを組み合わせていきます。



それぞれの部分を組み合わせて、



裏側のテクニックブロックにペグを挿し、



上の画像のような建物を支える土台とくっつけ、土台に乗せれば、



完成です。

それでは図書館の構造についての解説を、設計してくれた、さくらもちくんにしてもらおうと思います。



図書館本体の設計を担当したさくらもちです。本体の設計と言っても、せきしょーさんのラフの段階で表面のデザインはほとんど完成していたため、私がやったことは、表面のディティールアップと作品としてきちんと接続されるように中身を設計することです。

まずは本体全体のモジュール分割を考えました。共同作業ではよくやることなのですが、単に1個体として設計するのではなく、モジュールごとに設計し、最後にそれらのモジュールをがっちゃんこするやり方です。

今回設定したモジュール単位は以下の通りです。
・本体中央

・本体左

・本体右

・玄関

・中間土台


モジュール同士の接続は以下のような形をとります。強度面から接続にはペグを使います。ただし玄関と本体中央の接続には不本意ながら一部ポッチ接続を採用しました。




次に表面のディティールアップを紹介します。

1. 爪の利用



このサイズの爪には、ポッチの横にあるタイプとポッチから下に伸びているタイプがあります。



前者の方が周りのポッチ方向と同じなので簡単に接続ができるのですが、これでは表面にポッチが露出してしまい、なんか嫌です。そこで後者を使うことにしました。爪の向きを上にしたいので、ポッチを反転させます。したがって、次の写真のようになります。矢印の方向がポッチの向きになります。



ポッチの幅は2.5プレートなので、写真のように微妙にずらしながらでないとぴったりはまりません。

2. 玄関

横向きポッチのタイル表面にぴったりつける都合上、玄関全体は土台ポッチ平面から前後方向に半プレート分だけずれています。



このせいで階段を含む玄関部分は土台とはくっつけないことにしました。玄関部分は大半が上向きポッチなので、見たまんまの設計になっています。とはいえ、階段部分は土台と接続できない以上、ちょっとした工夫が必要です。



階段部分はタイル状にしたいのですが、普通のタイルでは下側しか接続できません。しかし下側はもう土台であり、これも上述の理由で接続できません。そこで、plate modifiedの以下のようなパーツを使いました。



しかし、このパーツが2幅限定であるにもかかわらず、玄関の階段は奇数幅です。したがって、これをそのまま並べるわけにもいきません。




そこで、階段の下側部分のみ玄関ポッチ平面から左右方向に半ポッチずらしました。これで下側部分のみ偶数幅になるので、先ほどのパーツを並べることができました。

最後に、玄関部分は土台と接続しないので、中間土台と本体中央のみに接続します。本体との接続はうまいこと半プレート分だけずらして接続し、中間土台との接続は強度面からaxleを使いました。



長い道程でしたが、これにて玄関部分は完成です。基本的に上向きポッチの設計なので、組み立てやすかったです。

次に一番複雑な本体の中身の設計について紹介します。

1. 本体右(左も同じ)

せきしょーさんがラフで示してくれた表面の設計では、本体右の全体幅は

(1ポッチ+3プレート+1ポッチ+3プレート)×4

でした。

2ポッチ=5プレートの法則より、ポッチ換算にすると、17.6ポッチになります。これでは普通に上ポッチで接続することは不可能です。

では横ポッチの接続ではどうでしょうか。2ポッチ=5プレートの法則より、17.6ポッチは44プレートです。素晴らしい!整数です!こんな経緯で横ポッチ接続を採用しました。

しかし、単純に44プレート分重ねて表面とぺったんこするだけでは、強度を保つという中身の設計が担うべき責務をまっとうできません。加えて厄介なのが、畑の畝みたいな表面の形状です。上述した式を見てもらえればわかるように、間にポッチが、しかも1ポッチのみで存在しているのです。つまり下のようになります。


プレート1枚分の厚みをフとおき、半プレート分の厚みをフとおきます。
フフフが1ポッチ、フフが横向きポチスロ、が横向きプレートです。

 ←単純にプレートを重ねただけ(しかも厚さ11...)
フフフフフフフフフフ ←せきしょーさんが設計した高度な表面デザイン

なんか途中で半プレートずれているのがお分かりいただけるでしょうか。
中身の設計ではこのずれを調整しつつ、強度も保つようにしなければなりません。



まずは上の完成図をご覧ください。赤の矢印が全体のポッチ方向です。横向きになってますね。しかし、青の部分や緑の部分は上向きポッチになっています。これは間にある上向きポッチに対応するための設計です。これの奥(表面)には畝の頂点部分があります。せきしょーさんの解説にもあったように、表面の畝部分には側面ポッチのあるブロックが積み重なっているので、うまいことそれらのブロックの間にプレートを挟むことで、後方から強度面で援護しているというわけです。特に青の部分の茶色いプレートはそのまま表面まで出ているのでわかりやすいと思います。

ちなみに、所々にあるテクニックブロックは、中間土台とペグ接続するためのものです。中間土台は上向きポッチなため、横向き=上向き変換の都合上、テクニックブロックの位置は不規則な位置にきてしまいます。これをうまいことはめるのも苦労しました。



上の写真は青の部分を拡大したものです。矢印がポッチの向きになります。先ほど説明した半プレートのずれを埋めるために、ブラケットを挟み込んで対応しています。ブラケットの薄い部分は半プレートになっているからです。このブラケットも位置をミスると接続できないので注意しました。



次の写真は緑の部分を拡大したものです。ここでも半プレートのずれを埋めるためにブラケットが使われていますが、それに加えてヘッドライトも使っています。ヘッドライトの側面ポッチ方向の厚みは2プレートなので、へっこんだ厚みがちょうど半プレートになるからです。

2. 本体中央



基本的なことは本体右と変わらないです。上向きポッチと横向きポッチが混在しているので、横向きポッチを基軸にしつつ、上向きポッチの箇所は半プレートを埋めながら接続していきます。上向きポッチの箇所で所々にタンのプレートがありますが、これらは表面の畝の部分まで出ており、プレートとプレートの間に、側面ポッチのあるブロックを挟み込んで強度を保っています。本体右と違うのは、本体中央は左右対称でなければならないので、ポッチの向きが中央から外側に向かっているのがわかります。



上の写真はオレンジの部分を拡大したものです。上向きポッチの表面の畝部分を支えるために、所々上向きポッチを作っていることがわかると思います。横向きポッチの中に上向きポッチを混ぜると半プレートのずれが生じるので、ブラケットやヘッドライトでうまいこと調整しています。特に中央部分は側面ポッチが左右両方に向くように、順ブラケットと逆ブラケットでブロックを挟み込みました。こうすることで、側面ポッチの高さが同じになって都合が良いのです。


まとめると、
横向きポッチの方がキリがよくて都合がよかったのに、所々に上向きポッチを用意する必要があって半プレートを作り出さなければならず、予想以上に複雑な設計になった。
ということです。

ポッチの向きが不規則に変わる設計なので、どのパーツがどういう向きで接続しているのか直感的にわかりづらく、自分で設計したにもかかわらず組み立てには苦労しました。


完成品は表面のみしか見ることができません。しかし、裏に隠れて表の美しさを支えている摩訶不思議な設計があるということを知っていただければ、裏方の設計者としては嬉しいかぎりです。





さくらもちくんの解説は以上になります。最後に僕の方から、そもそもなぜこのようなスケールにしたのかといったことをお伝えしたいと思います。

今回の作品は、横幅を64ポッチ以内にしたいという大きな制約条件がありました。畝の数は全部で4 + 5 + 4 = 13個であり、畝と柱を合わせた一つの繰り返し単位の横幅は、64 / 13 = 4.92ポッチ以内に治めないといけません。この時点で畝の特徴的な形を再現するのにウェッジプレートやコーナーブロックといった、普通に上ポッチ接続ができ、角がかけているパーツが使えなくなります。これらのパーツを使ってしまうと、少なくとも4ポッチは必要になるからです。また、これらのパーツには透明なものがなく、窓の表現をすることができません。そこで今回はスロープを使って畝の形を再現することにしました。(正直なところ他に表現の仕方が思いつかなかったのです...)



スロープを使い繰り返し単位(柱と畝)を作ったところ、ちょうど11プレートの厚み(1ポッチ+3プレート+1ポッチ+3プレートなので)になり横ポッチ接続ができました。また、本体中央の横幅が、繰り返し単位5個(11プレート × 5 = 55 プレート) と柱一本(1ポッチ = 2.5プレート)で57.5プレート = 23ポッチとなり、両端の柱と中央の畝のポッチが上を向いている部分が上ポッチ接続ができる間隔になりました。加えて、両側の茶色い部分が、繰り返し単位4個(11プレート × 44 = 44 プレート)で1プレート足せば45プレート = 18ポッチと、ちょうどポッチ単位になりました。こんな具合に、図書館全体がポッチ単位になり、頑張れば作れそうだと思ったのでこのスケールを採用しました。(まあ、思った以上に見通しが甘かったのですが。)





総合図書館の制作記は以上になります。後半は細かい話になってしまいましたが、設計者の苦労や、どのように考えて作品を作り上げたのかといったことを感じていただけたら幸いです。

それでは。



第71回駒場祭予告

2020-11-17 11:10:04 | 学園祭展示
こんにちは、今年度部長を務めている、2年のmizutaroです。

初めてブログ記事を書かせていただきます。例年、新学期になった頃、五月祭の作品まとめ記事も兼ねてその年の新部長が挨拶をさせていただいていたようですが、今年は五月祭が延期してしまったことや、同級生の部員がとても頼もしく色々やってくれた影響で、なんだかタイミングを逃してこの時期になってしまいました。

遅いご挨拶となってしまいましたが、どうぞよろしくお願い致します。

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とまぁ、私の言い訳はこれくらいにしておいて、毎年11月下旬に開催される駒場祭ですが、オンラインではあるものの今年も11/21(土)〜11/23(月)に開催されます。

前回の五月祭同様、当日3日間に渡って、我々東大レゴ部のYouTubeチャンネルにてライブ配信をさせていただきますので、是非ご覧ください!


さて、この記事では当日のライブ配信にてお送りする予定の企画と、そのスケジュールをご紹介したいとおもいます。

今回の駒場祭では、5つのメイン企画と(3日目のみ4つ)、その間にお送りする企画間企画を一日を通してお送りする予定です。まずは企画の紹介から…。



〜 企画紹介 〜

<メイン企画>
①個人作品紹介
部員が製作した作品を、製作者の解説つきでご紹介します。
様々なジャンルの個性的な作品をお楽しみください!

②150ピース企画作品紹介
東大レゴ部では毎年あるお題に沿って150ピース前後の作品を製作しています。
今年のお題はステイホームにちなんで「家にあるもの」です。きっと皆さんの家にもあるような身近なものが、レゴでどのように再現されているのでしょうか…?

③レゴしりとり
部員がレゴを使ってしりとりをしていきます!絵しりとりのレゴバージョンのようなものです。

④即興ビルド大会
視聴者の方からお題を募り、それに合わせてその場で部員が小さめの作品を作り上げます。
限られたピース、短い時間で果たしてどんな作品ができあがるのでしょうか…?

⑤レゴパーツ紹介
レゴにはどのような種類のパーツがあるのかをご紹介します。
紹介するパーツを生かしたちょっとした作例も出しつつ、わかりやすく解説していきます!

⑥大型作品紹介
学祭ごとに製作される大型作品ですが、今回は前回の五月祭で紹介できなかったものも含め大きめの作品となっています。どんなものかは当日のお楽しみです(笑)!後述のリアルタイム組み立てではこちらの作品を組み立てます。


<企画間企画>
①大型作品リアルタイム組み立て
大型作品を組み立てる様子をゆる〜く配信していきます。
例年では見られない、オンラインならではの企画となっています!



                 (完成予想図)

②キャンパスマップ紹介
例年駒場祭が開催される、東大駒場キャンパスをレゴで再現したキャンパスマップを紹介します!




以上の企画をお送りします!スケジュールは下記の予定です(当日の状況によって変更される可能性があります)。



〜 当日のスケジュール (Live Schedule)〜

11/21(土) (21st, Sat.)
9:00〜   レゴしりとり (LEGO Shiritori (word chain))
   大型作品リアルタイム組み立て
11:00〜  個人作品紹介 (Personal Works)
   大型作品リアルタイム組み立て
13:00〜  レゴパーツ紹介 (Parts Introduction)
   キャンパスマップ紹介
15:00〜  150ピース企画作品紹介 (Works of 150 Parts)
   大型作品リアルタイム組み立て
17:00〜  即興ビルド大会 (Impromptu Building Competition)



11/22(日) (22nd, Sun.)
9:00〜   即興ビルド大会 (Impromptu Building Competition)
   大型作品リアルタイム組み立て
11:00〜  レゴパーツ紹介 (Parts Introduction)
   キャンパスマップ紹介
13:00〜  150ピース企画作品紹介 (Works of 150 Parts)
   大型作品リアルタイム組み立て
15:00〜  個人作品紹介 (Personal Works)
   大型作品リアルタイム組み立て
17:00〜  レゴしりとり (LEGO Shiritori (word chain))



11/23(月) (23rd, Mon.)
9:00〜   150ピース企画作品紹介 (Works of 150 Parts)
   キャンパスマップ紹介
11:00〜  大型作品紹介① (The Large Work I)
   キャンパスマップ紹介
13:00〜  大型作品紹介② (The Large Work II)
   キャンパスマップ紹介
15:00〜  個人作品紹介 (Personal Works)
   キャンパスマップ紹介


  *Between programs we’re going to show you the LEGO Komaba campus map and how we assemble The Large Work.



以上のスケジュールでお送りする予定です。

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それでは、当日ライブ配信にてお会いできることを楽しみにしています。
当日より良いライブ配信をお送りできるよう準備を重ねていますので、是非ご覧ください!


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〜 他団体の駒場祭おすすめ企画 〜

東京大学CAST

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東大LEGO部@第36回日本義肢装具学会学術大会

2020-11-14 18:44:06 | イベント
皆さんこんにちは。
部員のこのやろーです.
先日東大で開催された第36回日本義肢装具学会学術大会にて、企画展示として東大LEGO部が参加しました。
そこで展示した作品について、制作者のコメントと併せて紹介します。

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「下肢装具」
制作者:このやろー



 下肢装具とは足に装着して立位・歩行機能をサポートする装具だそうです。今回作ったのは、その中でも短下肢装具と呼ばれるものです。

 短下肢装具をレゴで作るにあたって、実際に機能性を持たせるのは難しいと思ったので、別のアプローチをすることにしました。その中で、様々なパーツを組み合わせて色々な作品を作れることがレゴの魅力の一つだと考え、そのようなコンセプトで作品を作りました。具体的には、写真中央のように白ベースで全面にポッチが出ている下肢装具のモデルを制作し、そのポッチ部分にパーツをつけることで様々なデコレーションができるような作品にしました。写真左は実際の下肢装具風のデコレーション、右はレゴらしいカラフルなデコレーション例です。

 制作の中で意識したこととしましては、できるだけシンプルにかつそれとわかる形状にするということです。実際の下肢装具は底面を足の形に合わせているため、もっと複雑な形状をしていますが、そこまで再現すると全面にポッチを出すというコンセプトと両立できません。かと言って、下肢装具とわからなければ作品としての意味がありません。レゴで何かを作っているとこのようなトレードオフの関係に直面することがよくありますが、今回は2つの要素をうまくケアしつつまとめられたと思います。

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「電動義手」
制作者:Hachi



自分は全くの素人ですが、制作にあたり調べたところ、義手は大きくは
・外観の再現のための「装飾用義手」
・ハーネスやケーブルを組み合わせ、使用者の筋力を動力源とする「能動義手」
・モータ・バッテリーを動力源とする「筋電義手」
に区別されるそうです.

今回はこのやろー君が下肢装具の静的モデルを制作してくれることになっていたので、自分は「動き」に拘ってみようと思いました.
そこで、今回の制作での目標は「LEGOらしさと実用性を兼ね備える(筋電)義手を作ること」としました.

[LEGOらしさ]
筋電義手にはモータとセンサが必要になります.LEGOのモーターといえばPowerFunctionsやMindstormsのEV3なども使えますが、今回は最近出てきたPoweredUpを使用しました.


PoweredUpの特徴はスマホとの連携が前提となることです.アプリの自作から行うことで、スマホの高度な処理能力やディスプレイを活かした制御を行うことができます.PoweredUpについては個人ブログで解説記事(リンク:http://blog.livedoor.jp/lego_nabe/archives/7735096.html)を書いていますので、詳しくはそちらをご覧ください.

モータはPoweredUpのパーツで存在しますが、通常の筋電義手で制御に使われる筋電センサのパーツはありません.電子回路を自作すれば筋電センサをLEGOのガワと組み合わせることもできますが、「LEGOらしさ」にこだわりたかったのと、LEGO以外に手を出すと大変なことになるリスクがありました.そこで、今回は代わりにPoweredUpパーツのセンサや連携しているスマホのマイク(音声認識)によりモータ(出力)の動作を制御することにしました.


例えば、肘のヒンジをギアボックスを介してモータに繋ぐことで、モータの角度センサによる肘の曲げ角度の取得を可能としました.

義手としての構造以外では、今回のようなギミックに重きを置く作品における「LEGOらしさ」は「ギミックのカスタマイズ性」だと考えました.そこで、義手をモータやバッテリーがある本体とアクチュエータとしての機能を持つ手先部分のアタッチメントに分け、アタッチメントを交換することにより様々な動作が可能となるようにしました.また、アタッチメントの接続部分も当然LEGOなので、オリジナルのアタッチメントを作成することで動きや見た目をカスタマイズすることができます.


物を掴むための義手以外にも、剣や銃のようなものも作ってみました.


ちなみに、下肢装具のようにパーツ交換によりカラーリングを変更できるようにしたかったのですが、RedとDark Azureでしかパーツが揃わないようです(厳密には画像のDark Azureも一部色が揃わないので、変えています).


今回はパーツの入手性から本体は赤を中心としたカラーリングで制作しましたが、できればもう少し汎用性の高いパーツでも強度を出せるようにしたいものです.

[実用性]
今回は「実用性」にこだわるにあたり、ソフト・ハードの両面で工夫しました.

まずソフト面では、なるべく片手で操作できるようにしたいと考え、義手を装着していない方の手での操作(スマホ画面やSmartHubボタンの操作)を最低限にするために、アプリではiOSの音声認識機能を導入しました.例えば、タッチパネルのボタンの操作をする代わりに、スマホのマイクに「開く」「閉じる」など発声することで義手の開閉を行います.


また、モータの角度センサやSmartHubの加速度センサにより、義手の姿勢(向きや肘の曲げ具合)を監視し、特定のジェスチャーを行った際にギミックを発動する、という機能を開発しました.例えば、ライトセイバー的なアタッチメントでは、腕を勢いよく振った時に音が鳴り、LEDが発光するようにしました.


ハード面では、強度を重視しました.今回はSmartHubを電池交換が可能な位置にを内蔵する都合で、大きいフレームを全体に通すことができなかったので、リフトアームだけでなくTechnicブロックも使用し、しなりを可能な限り少なくしました.細かい点としては、装着したときに痛くないように、内側にパーツの角(踏むと痛い部分)が露出しないようにしました.そのために、角が少ないTechnicリフトアームを中心とした構造になっています.


大きさに関しては設計の都合もあり、自分の腕を参考にしましたが、Linear Actuatorを使用したカバーの開閉やDotsブレスレットの調整である程度の太さに対応できるようにしました.


義手のアタッチメントの交換もなるべく簡易にできるようにしました.
接続については強度が必要なものはペグを複数使用した接続にしていますが、そこそこの強度で良いものはプラのしなりを利用したロック機構を設計しています.


また、先端部にBoostのVisionセンサを搭載しています.


これは赤外線リモコンとして使用できる他、距離測定センサとして使用することでアタッチメントの着脱を自動検知します.元々はアタッチメントの色を読み取って判別できるようにする予定でしたが、精度が低く、使いづらかったので着脱検出のみ(その後発声or手動で選択)となりました.

なお、今回の設計ではSmartHubを本体先端部に配置していますが、当初は肘のあたりに配置しようとしていて、断念した物です.本来は肩や肘の負担を減らすためになるべく手前側に配置したかったのですが、モータのケーブルの長さの都合で不可能だったので、うまい取り回しを思いついたら再チャレンジしたいところです.(LEGOのパーツの都合ではなく、通信の原理的にケーブルはある程度の長さにしかできないようです)

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実は一年以上前からの企画で、コロナウイルスの影響などもありましたが、幸い無事作品の完成・発表ができました.
学会での展示というものは初めてでしたが、普段の学祭とはまた違った感想等をいただくことができ、とても良い経験になりました。