とねり日記

とりことや舎人(とねり)の
どげんかせんとの日々

さよならだけが人生ならば

2018年04月08日 | 山里から
4月4日、山桜Aが開花した。
観測史上最速か?
そして8日、ほぼ満開。


春はせつない。

桜の蕾が膨らみつつあった3月末の日もとっぷり暮れたころ、Yさん夫妻が到着した。遠い大都会から乳飲み子を連れての長旅だ。そして翌朝さらに遠くへ旅立つ。二度と都会へは戻らない旅だ。

お二人が始めてわが舎に来たのは去年の春。
農作業を手伝いたいというので畦はつりをしてもらった。

話を聞くと、二人にとって大都会での生活は心にも体にも極度にストレスフルのようだった。それで、ストレスをほぐす必要から、休日にはちょくちょく二人して田舎に出かけ泊まりあるいてきたそうだ。だがなかなか満足できる宿にはめぐり会えなかった。「自然」「古民家」「田舎」などを謳った宿でも、例えば糊のきいたシーツや浴衣に、あるいはタオルに使ってある柔軟剤の香料に気分が悪くなる、肌が負けるなどということがままあったのだそうだ。

そのお二人に「今まで経験してきたなかでここが最高」と言っていただいた。
以来、季節が変わるたびにやってきて、二泊、三泊して帰っていかれた。そして来るたびに、田草取り、苺の定植など農作業を手伝っていただいた。

その間に子が生まれ、いつしか三人の旅となった。
そして秋の終わりに来られたとき、一家が田舎への移住を考えておられると聞いて、後日、京都府の移住サポート機関などを紹介した。わが南丹市の空き家バンクなどへも積極的に紹介依頼をされたようだが、二人が考える農業への取り組みが地元住民に理解されなかったようで、物件はあっても話がまとまらなかった、と後で聞いた。

私たちもときどき田舎暮らし物件を見ることがあるが、「有機(農業)お断り」という地域は結構多い。
このような山里に移住してきて、自力で食っていこうという意思をもった人たちの考える農業というのは、苗箱にネオニコ系農薬を振って、除草剤撒いて、化学肥料やって、コンバインで刈り取って、1日~2日で乾燥させて…といういわゆる慣行農法米作のような農業ではない。
役場、農協、土建業などの勤めに出るかたわら、慣行農法で省力手間いらずの米作りをしながら補助金をもらってかろうじて維持してきた田畑だが、補助金がなくなり、税金で成り立っていた仕事も減るなかで、人は出て行き耕作放棄地が広がってきたのではないか?

にもかかわらず、ヒトマチ(1区画)の田んぼが最大2反に満たないようなこの山里で、新たに就農し自力で食っていこうという入人(いりびと)に慣行農法でやれというのは、霞を食って生きろと言うようなものではないか?自分たちですら食っていけない農業をなぜ人に押しつけるのか。

二人は大都会で強いストレスに耐えながら懸命にナチュラルな生活を希求してきた。
したがって、忙しい都会生活者が簡単便利に使えるナチュラルフーズのヘビーユーザーでもあった。
その観点から、まだ誰も商品化していない新しい農産加工品の製造・販売を新生活の収入の軸にするという展望を持っている。

その彼らがようやく見つけた新天地は山のあなたの遙か遠く、君よ知るやの地だった。
出発の朝、記念写真を撮った。三脚を出してきてカメラを据えセルフタイマーで撮った。皆で写っておきたかったのだ。

彼らの行く土地は遠い。物理的な遠さだけではなく、田畑を耕し山羊や鶏を飼い…といった暮らしをしていると、1年に一度、一泊の旅に出るのもやっとだから。
もうしばらく会えないだろうなあ。
新しい生活のために買った新しい車で彼らは旅立っていく。車の窓を一杯に開けて彼らが手を振る。私たちも手を振る。走り始めた車の中から彼らの声が聞こえた。「さよなら」と言ったのか「また来ます」と言ったのか…。思わず私も「がんばれよー!」と二度、三度、叫んだ。涙が流れた。

花発多風雨 人生足別離

ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

「人生に別離足(み)つ」か…
井伏鱒二の訳で名高い漢詩が、またも口をつく春。
人の去った部屋で、弱りかけた炭火の掘りごたつに足を突っ込んでぼんやりしていたら、ふと寺山修司の詩の一片が浮かんだ。

さよならだけが人生ならば また来る春は何だろう
さよならだけが人生ならば めぐりあう日は何だろう

4月16日、山桜Aはあらかた散った。


そして手前の山桜Bが開花した。


来年も再来年も花は咲き、春は来る。
(4月8日に投稿したこの記事は、プライバシーに配慮して4月16日に一部書き改め再投稿しました)
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
 (みっこちゃん)
2018-04-13 15:59:06
 うちの庭のしだれ桜が散って 隣の八重桜が今満開です。
 土橋へ行く道の桜はみな葉桜になりました。桜はいつもあわただしくきて あわただしく散っていきます。
 素晴らしいお友達とのお別れにこちらももらいなきしました。
  入学の孫満開の花の下
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桜散る (とねり)
2018-04-13 22:39:40
横風が 吹けば真横に 花は舞う
種籾を さらす掛樋に 花の散る
散る花を 惜しみつ 今朝は家を出る
散る花に 「また来年」と 別れ告ぐ
葉桜は 命の盛り 桜木の
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