冨田敬士の翻訳ノート

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横書き日本語の読点の形(,)(、)

2011-01-14 20:30:59 | エッセイ
 たて書き日本語の読点は昔から筆の筆跡に合わせて(、)と決まっているが,横書きの場合は統一されていない。具体的には,実務関係の文書では(、)が圧倒的に多いのに対して,出版書籍では欧文のコンマ(,)が断然多く,(、)は例外的な存在だ。筆者の場合は,使用しているキーボードの配列から長い間コンマの読点を使用してきたが,じつは以前から実務の文書になぜ(、)が多用されるのか疑問に思っていた。最近翻訳を勉強中の人から質問を受けてJISキーボードを改めて確認したところ,なんと右手で打つ読点のキーは(、)しか付いていない。日本語キーボードの不自由さと自分自身の無知さ加減にショックを受けた。選択肢がない以上,普段にコンマ(,)が使われないわけだ。
 出版物にはなぜ(,)を使用しているのか。ある出版社の編集者に聞いたところ,横書きは欧文の書式なので読点も欧文のコンマ(,)を使うのが自然であり,出版関係者の間ではコンマの使用が暗黙の了解になっているという。合理的な考え方だと思う。最近の日本語の文書には英文(欧文)が含まれることも少なくないので,同じ形式の読点を使った方が見やすく,見栄えもよい。横書きにはぜひコンマを使いたい。できればもっと踏み込んで,句点も(。)でなく欧文のピリオド(.)を使ったらどうだろうか。
 出版本の中には実務の文書と同じように(、)の読点を使用したものが多少はある。外国語学習の比較的簡単な参考書や自費出版かと思われるような書籍に,こうしたスタイルを使用する傾向がみられるようだ。これは多分,日本語のJISキーボードで文章を書いてそのまま編集し,印刷したものだろう。一方,縦書きから横書きに変わった現代中国語では,読点はもちろんのこと,疑問符,感嘆符,コロンなど,欧文スタイルを採用している。ただ,句点だけはなぜか(。)を使っている。台湾の中国語はまだ縦書きスタイルだが,読点にはコンマ(,)を使っている。日本語の場合,こうした問題の処理にはキーボードが絡んでくるので,このブログでも取り上げたローマ字入力の問題も含めて取扱いが厄介だ。

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