時の泉庭園

小説は、基本、ハッピーエンド。
話は、最後まで出来上がってからUPなので、全部完結済み。

(^◇^)・・・みん兎

やらへども鬼 3

2008-07-25 16:36:19 | やらへども鬼
 話を聞き終わって、ゆりは目をくるくるとさせる。
「ねえ、兄上。その知り合いが姫君なのじゃ、ない?」
「う~ん、惜しい。その家敷に知り合いがいるけれど、姫君じゃないよ。」
「?まあ、詮索しても意味ないか。・・・その筝を見せて貰うってことが出来ないかしら。笛は、十中八九人の仕業だと思うけど、確かめてみないと・・・。でも、いきなり訪ねていくわけにもいかないわよね。」
「出来ないこともないかな・・・。」
 時貞は、ほとんど即答に近い形で、ゆりに姫らしい格好をしてついてくるように言った。
 ゆりが、支度に手間取っている間、時貞はこの屋敷に滞在している時に使う自分の部屋へ行き、どこかに使いを走らせていた。
 ゆりは、まとの一人では着替えを用意することも出来ないので、他の女房たちをよびに行かせる。ぽつんと取り残された雨水(うすい)が、聞く。
「兄上とご一緒なら、私がお供することもありませんよね。」
 時貞の供がいるので、雨水(うすい)の出る幕はない。
「そうね。父上にしばらく滞在するって約束しちゃったし、こっちに戻ってくるつもりだから、まとのと一緒にこっちで待っていて。」
「あの、それならお願いが・・・。」
「何?」
「ここに来る前に、ゆりさまの父上のお供をしていた武者のところで、働いていてもいいですか?」
 いざという時の身のこなしを身につけたいのだと言った。ゆりを守るどころか、簡単に腕を捻られたことが悔しいらしい。
「それなら、私から、頼んでおくわ。でも、別に、警護の真似なんかしなくていいのよ?」
「いいえ。そういうわけには行きません。拾っていただいた恩があります。」
 いつもは、にこにこしていて、とろとろして見える雨水(うすい)が、背筋をのばして座っている。まだ、長い髪をひとつに結わえて水干の背に垂らし、烏帽子も被っていない童形で、どことなく幼さの抜けない顔なのに、大人びた目をしている。
こんなふうに居住まいを正していると、なんとなくきりっとして見えるから、不思議だ。ゆりは、ちょっと考えてから、やがて、こくんと頷いた。
「そっか。雨水(うすい)はそんなふうに考えるのね。」
 ゆりは、承諾し、ちょうどまとのが人を連れて戻って来た。それを潮に雨水(うすい)は、退っていった。まとのが、張り切って、女房たちの手伝いをしている。
みづらに結っていた髪を解く。ゆりの背に艶やかな黒髪が広がる。それから、一番下着にあたる白い小袖を着て、濃きの袴(未婚の女子が身に着ける。巫女さんのような緋の袴は結婚した女性の身につけるもの)を身につけ、順に衣を重ねるのだが、真夏なのであまり沢山は重ねない。下の色が透ける薄い衣を何枚か重ねただけだ。その背にながれる黒髪をきれいに透かして、最後にほんのちょっとお化粧をして終わりだ。
 その場を仕切っていた女房が、檜(ひ)扇(おうぎ)をゆりに手渡す。紫野という女房だ。ここにいる間は、いつも彼女がゆりにつくことになっている。
 紫野がゆりに檜扇を持たせながら、支度の出来栄えを確かめて、ゆっくりと微笑しながらいう。
「あら、姫さま。そのように唇をなめないでくださいませ。慣れないから、少し気持ち悪いかもしれませぬが、はげてしまいますからね。そんなに濃く化粧を施しておりませんから、少しくらいゆり姫様らしく表情をおつくりになっても大丈夫にはしてありますよ。」
「ありがとう。それは助かるわ。」
 ゆりが、ほっと安心しながら答える。化粧が崩れないように気を使うなど、大変な徒労のように感じる。
「時貞さまから、姫さまが、和歌の上手といわれるお方さまのところへ、お勉強に行かれるのだと、伺いました。ゆり姫さまらしさを損なわないよう、あまり仰々しく飾り立てないようにとも・・・。あちらにも、同じ年頃の姫がいらっしゃって、仲良くなれるとよろしいですわね。」
「・・・・・・そうね。」
 和歌と聞いて舌打ちしそうになるのを堪え、微妙な顔をしてる彼女を、まとのが笑いをこらえてみている。ゆりが、口を開きかけた時、頃合を見計らって迎えに来た時貞が姿を見せ、まとのや紫野に見送られ、家を出た。
 牛車に揺られ、相手のお屋敷につくまでそれほど時間はかからなかった。


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