時の泉庭園

小説は、基本、ハッピーエンド。
話は、最後まで出来上がってからUPなので、全部完結済み。

(^◇^)・・・みん兎

椿餅

2010-04-14 08:17:07 | 歴女じゃなくても召し上がれ



老松で購入した、椿餅です。
中に、甘い餡は入っていないと思いますが、
椿餅は、源氏物語にも名が出て来るそうで・・


和菓子は、四季折々を表現しますが、
そんな昔から、同じようなことをしてたんですねえ。


椿のつるっと艶のある緑の葉で、
白い雪を包んだような感じです。

冬季に和菓子屋さんの店頭に並びます。

ところで、桜餅というと、花に見立てて、
桜色に染まった餅(関東では、クレープみたいなので包んであるそうですが)
というのが、定番ですが、嵐山嵯峨野で売られている桜餅は、白いです。






                          



すみなれし人のかげ

2010-04-03 11:58:44 | 王朝妖の百景 
寺の門をくぐり、芳しい花の香りに包まれた。ふわり、鼻孔をくすぐるこの香り。
「ああ、これか・・・角を曲がる時に、道に漂っていた香りは・・。そちらに、気をとられたお陰で、うまくこの寺を見つけ、道に迷わずに済んだ。」
 旅の僧は、片手を上げて、頭上の笠をちょっと上へ押しやり、香りの主を見た。
案内のこの寺の僧が、頷きながら、講釈をたれ始める。
「あの梅は、軒端の梅と言いましてな。
昔の歌人、和泉式部というお方が、愛でた梅ということでして・・・
というのも、ここ東北の院は、昔、一条天皇の妃だった藤原彰子・・二代の天皇さんの母君で、上東門院と号したお方のお住まいがあった辺りでして、和泉式部というお方は、上東門院にお仕えしていたので、その軒先の、お庭の春先、毎年花を咲かせる可憐なこの花を大変気に入っていたそうです。
この和泉式部というお方、夫のある身で、親王さんと恋に落ちたり・・・ま、だいぶ、奔放な方だったらしいですが、艶やかなお歌が遺っております。どうです?そう聞くと、この梅の香も、在りし日の歌人の思いが未だ漂うように感じるでしょう?」
 旅の僧が、東国から京を訪ねて来たばかりなので、京の故事にはあまり詳しくないと思い、寺の僧は、親切心から話してくれたのだろうが・・旅の僧は、苦笑まじりに。
「なるほど、火宅の人か・・・。」
 僧は、梅の木に向かい、合掌した。ふわりと、また一層芳しい香りが増した気がして、いぶかしく思い、花をのぞきこむ。・・・・・・?
「暗きより暗き道にぞ入りぬべき はるかに照らせ山の端の月・・という歌があります。ただ、煩悩に翻弄されて生きたというだけのお方ではなかったようには思われますが。求道の心もお持ちだったんでしょうな・・。生涯の中で、己が心を照らす月の光を見つけられたならば、よろしおすなあ・・。」
 その言葉に、旅の僧は頷く。
寺の僧は、気をよくして、この寺が、古くは、平安京の区画の東北辺にあたっているのだと教えてくれた。
今では、この通りより、東にも北にも人が住み、家が建ってわからなくなっているが、東北というのは、風水でいうところの鬼門。
鬼門は、鬼や魔が入って来るところというので、昔から、京では家を建てる時に、東北の角や、裏鬼門にあたる西南の角などをわざと少し欠けさせる風習がある。
軒を並べる細長い家の表の一角に、四角い小さな場所へ小石が敷いてあった風景は、なるほどそういうことかと、旅の僧は、思う。
「この東北の院は、古くは、京の鬼門に建てられたというわけですな。」
「ええ。ですから、魔のものが侵入しないように、しっかりとお勤めせねばなりません。」
 平安京の東北辺に建てられた法成寺という寺のその一角の、さらに東北の地にある東北の院は、鬼門の地。来る途中道々見た家の、あの小さな欠けた部分と同じだ。
魔よけの小石の代わりに、寺や神社など、神聖な場所を置いているのだ。魔魅など入る余地はあろうか・・・と、旅の僧はもう一度、梅の木を眺めた。
 光のもとで可憐に咲く白い花がたくさん、芳香を放っている。
気のせいか・・・。視線を外し、旅の僧は、案内されて、寺の僧についていく。



用意された部屋は、あの軒端の梅の木がすぐ庭先にある場所だ。
「・・・・・・・・。」
 夜になると、旅の僧はひとり静かに経を誦す。丁寧に、一心に誦していた経が終わり、声が途切れると、庭先から、一層芳しい香りが、押し寄せて来た。
 縁先に気配を感じ、出てみると、そこに艶やかな長い黒髪の女が座っている。長い裾を引く着物は、廊下に花のように広がっている。袴を見につけ、片足だけ立てて座る姿は、古の姫君のような格好だ。顔の前に翳していた扇をずらし、ゆっくりと閉じて、床の上に置き、威儀を正して、旅の僧へ向けて、頭を下げた。
「先ほどから、ありがたきお経に聞き入っておりました。」
「はて、何者であるのか・・・。邪悪なものには見えないが。」
「何者と・・・・・・・・。」
彼女が身じろぎすると、床に花弁のように広がる裳裾がさらさらと音を立てる。唐衣を身につけた姿は、ここに来た時の寺の僧が話していた和泉式部の時代のもののようである。ただ、髪型が・・・・。幾重も色目を重ねた豪華な衣装の上をうねるように流れる長い黒髪は、そのようであるが。
頭上には、双髻に結われた髪。そこに花の枝を挿した姿は、壁画の飛鳥美人のようでもある。



身じろぎした彼女は、心もとない表情をしている。所在なげに、首を傾けたあと、月明かりの方へ顔を向けた。
「すみなれし人かげもせぬ我が宿に 有明の月の幾夜ともなく・・・」
 旅の僧は、彼女が振り仰ぐ空を見る。満月に少し足りない丸い月。
「月は、中天にあるが?」
 有明の月とは、空が明るくなっても残っている月のことだ。
「無粋なお方。」
 拗ねたように唇を尖らせる。
「何を拗ねておられるのか、拙僧にはわからないが・・。京ぶりの情趣を解さないからといって、美しいものを美しいと感じる心はもっておるぞ?旅の空の下にも、花は咲いている。」
 夜目にも白く鮮やかに映る衣の袖が、風に靡いて、旅の僧へ差し伸べられる。僧は、そ知らぬ顔で、片手だけ合掌のかたちをとり、短い経文を唱える。僧が、身じろぎすると、腕も揺れ、かっ、かっ・・と、数珠の玉がこすれて音を立てた。
 ぷいっとむくれた女が、そっぽを向き、立ち上がる。
「ここは、無粋な者ばかり。わらわを称賛してくれる人はいない。歌のひとつも贈る気のない方ばっかり。」
 彼女の背で、滝のようにうねるような髪が、生き物のように衣の上でさらさらと音を立てた。同時に、ふうわりと香りが漂う。この香りは・・・・。はあ。なるほど、そういうことか・・・旅の僧は、心の中で頷く。
「軒端の梅か・・・。古風な人の容をしているが、梅の木の精であろう?」
 かっと目を見開いた女が、小さく口を開く。
「梅・・・。」
 つぶやくと、今度は、袖で口元を隠し、くすくすと可笑しそうに笑う。
「忘れていたわ。」
 梅は、もう心もとない目をしていない。それから、旅の僧へひとつ会釈をすると、舞いを披露した。
 ひとつ、袖を振るたびに、芳しい花の香りが辺りに舞い飛ぶ。濃きの袴が、床を踏み、トンと音を出すたび、爽快な風が巻き起こる。
 くるくると、床に裳を引きずりながら、向きを変えて、美しく頬笑み、興にのった彼女は、人外の性(さが)そのままに、くるくる・・夜空に舞い上がる。風に揺れる白い衣が、夜空に散っていく梅の花弁のようにも見える。くるくる・・ふわり。夜空に遊ぶ。梅の精は、しばらく、楽しそうに舞っていた。
 十分に舞いを楽しみ、廊下の元の場所へ戻って来た時には、何とも言えぬ爽快感が、あたりに漂っていた。旅の僧へ。
「鬼門の守りの役目を思い出しました・・。良き香りは、その場を浄化するものです。」
「なるほど。」
「それに、久方ぶりに、わくわくいたしました。舞を見て頂く人がいて。」
「舞いを?」
「ええ。見えても見えなくても、花をよきものと言ってくださる方に、応えるのです。」
 僧は、じっと梅をみつめながら。
「旅の空に咲いている花は、何も思わずただ咲いていたぞ?物を思うのは、それを見ている人の方だ。さしずめ、軒端の梅を愛でたという和泉式部に、影響されすぎているのであろう。
ありのままに、自然を美しいと感じるだけではいけないのか?それならば、拙僧の他にも、ここを訪れる人、近くを通り過ぎて行く人の目にも、きれいだと映っているのではないか?」
「草木にも、心はあるのです。特別な心をくれたお方は忘れられません。他にも、主を慕って遠く太宰府まで飛んで行った飛び梅という例もありましょう?」
 僧は、ゆっくりと首を横に振る。
「もう鬼席に入られた方にいつまでも執着しては、害にもなろう。やはり、そこのところは化生の者にはわからぬか・・。和泉式部というお方はどうされた?」
「・・・・・・・。」
 梅は、広げた扇の影から、瞳だけ覗かせて、考えている。
「門の外 法の音 聞けばわれも 火宅を出でにける哉・・・・。
と歌を詠んだ功徳で菩薩になられました。」
 寂しげな瞳。
「恋うてはなりませぬか・・・?」
「ならぬ。だが、そなたの気持ちは、そのお方に届いておろうよ。」
「・・・・・・・。」
「梅よ。ただ、ありのままに。
咲いているだけで、そなたは、役目を果たし、化生のそなたにも報いられる。時は流れる。可憐な花を厭うものはいない。美しいと好むものは、この先も多く現れよう。」
 僧の言葉に、梅の精は頷いた。
立ちあがって、またひとつ舞いを舞うと、大人しく消えて行った。




 翌日、逗留の礼を述べて、寺の門を出た旅の僧。
 通りの角を曲がる時に、ふわりと梅の香りが追いついた。
「見送ってくれるのか?」
 そう思った矢先、突然、激しい風が巻き起こる。
 風は、旅の僧の墨染の衣の袂を揺らし、右へ左へと揺れた。
 息苦しいほどの風圧に、梅の香が薫る。
 風が、上へ吹き上げ、辻風のように、強くぐるぐると巻いていく。旅の僧を足止めする。風に飛ばされそうな笠を方手で押さえ、空いているもう片方の手で、合掌のかたちをとり、経を唱える。
「ただありのままに。」
 経のあと、そうつぶやくと、風がぱたりとやんだ。まだ、辺りにただよっている香りに、
「わかっておられるのだろう?
・・思えば、梅の香を嗅いだあとは、胸のつかえがとれる。
そして、ほっとするのだ。それは、我らにも馴染み深い抹香も、ほっと一息与えてくれるところが、似ている。人を惑わすものではないはずだ。」

日は入りて 月まだ出でぬたそがれに かかげて照らす法のともしび

 旅の僧の言葉が終わると、同時に歌が耳に届き、梅の香は、四散してしまった。僧は、ほっと胸をなでおろす。
 梅の精は、菩薩になられたと言ったけれど、まだ少し、彼のお方の思いがのこっているのかもしれない・・と、僧は思った。
 梅の精は、自分を愛でてくれるものに応えてやっているのだ。やっと、断ち切れたのかもしれない・・・。
旅の僧は、昨夜梅の精が聞き入っていたと言った経を誦して、手向けてやったのだった。

            終わり




 梅の季節終るまでに、書いてしまうの間に合いませんでした・・ 

 件の軒端梅を見に行ってきました。吉田神社の裏の住宅街のなかに、東北の院があります。町中から、今の場所へ引っ越してきたとのことで、梅もどうやら、ちなんで植えられたというものでしょう。拝観することはできませんが、小さなお寺なので、門のところから、覗いてみれば、この軒端の梅が見えます。小さめの花が咲く、白梅です。

 もうひとつ、清涼寺にもあるのですが、こちらも、ちなんで植えられたというものです。由縁がわからないのですが、清涼寺が平安時代、貴族が訪れていたからでしょうか?こちらは、紅梅。老木なので、花は少ししかつかないようでした。

 謡曲に、軒端の梅の話があるそうで・・・・ですが、元の話は全く知らないので、ネットで調べあらすじをもとに、勝手に妄想して、この話を作ってみました。
 ですから、もとの話には、おそらく出てこないものも入っています。

 くらきよりくらき道にぞ入りぬべき はるかに照らせ山の端の月 和泉式部

 上記の歌は、十代か、二十代、若い頃、和泉式部が性空上人に贈った歌だそうです。

 日は入りて 月まだ出でぬたそがれに かかげて照らす法のともしび 性空上人
 
悟りの手助けになるならば・・・という意味にとれるでしょうか?和泉式部に返した歌のように、某漫画にもあったのですが、あちこち調べてみて、どうも伝説の域を出ないような感じです。書写山の伝説とか、いかにもそれらしいのはあるのですが、そちらは、返歌せずに袈裟を贈ったとか・・。和歌は、両者とも残っているので、うまく組み合わせて、伝説を作ったのではないか・・と推測なさっている記事もありました。(全部、ネットです。書籍類で調べたわけではありません。)

すみなれし人かげもせぬ我が宿に 有明の月の幾夜ともなく  和泉式部

門の外 法の音聞けばわれも 火宅を出でにける哉 謡曲の中に出て来るものらしい。

写真は、真ん中のものは、軒端の梅とは関係ないです。
白梅だったので、使ってみました・・