夕方。明月は、晩飯を利休庵で食べようと思って、店じまいして、外に出ようと建物の中を歩いていた。ふいに、掠めた香りに顔を顰める。莉々の残していったハーブの香り?
あいつ、あっちもこっちも、もの珍しげに、覗いてみて歩いて帰ったな・・・。あちこち、ぐるぐるとまわった形跡がある。明月が通り過ぎて来たところの中でも、ちょっと毛色の変った演出をする占いの店の前で、いくつか、微かに残り香があった。それにしても、こんなに長く残っているものなのか・・・?彼女が、それほど強く香りをつけているようには思えなかったが。魔よけでもあると言っていたから、不思議な効力でも発揮しているのだろうか・・・・。・・・・・?また、立ち止まる。
ここは、幽斎の所だ。けれど、幽斎のところは、はやってはいるが、明月と同じ、ありきたりな占いである。足が止まる。
「やあ。明月君。」
幽斎が出てきた。
「こんにちは。幽斎さん、今日はもう、終わりですか?」
「うん。今日はなんだか、疲れてしまって・・・。」
幽斎が答える。明月が鼻をくんとさせ、瞳を泳がせたのを見て、幽斎が穏やかに頷きながら、中を指さした。あ・・・リースだ。幽斎の机にのっている。明月が幽斎の方を見た。
「今朝、君が連れていた子だろう?あちこちの看板をおもしろそうに眺めていて、たまたま目があってしまってねえ。声をかけたら、そのハーブのリースをくれた。」
「・・・・・何か、ご迷惑おかけしませんでしたか。」
明月が、恐縮する謂われはないのだが、ここまで連れてきてしまったのは確かだ。彼女独特のペースに、振り回される人もいるだろうと、思う。
「いや、そんなことはないよ。どんな所が集客力があるのか、興味があるみたいだった。彼女かい?いや、大人になった・・・あの、けんかして道に転がっていた、やんちゃ坊主が、なあ。」
幽斎は目を細めた。明月は居心地の悪そうな、ばつの悪い表情をしている。疲れたと言っていたので、具合が悪いのかと話題を変えようと明月は訊いた。年寄りだからなと、返事が返ってきた。夕飯を一緒に食べに行くことになる。幽斎が中から、コートをとって来る。その時、明月の鼻をかすめたものがある。ふわんと、ハーブの・・・・。しかしこれは、有り得ないことだ。仕舞われてあったコート。それに、香の煙を燻らしたように立ち昇った気配・・・・。明月の頭に忘れていた記憶が浮かび上がった。昼と夜とを行ったり来たりしているような瞳を思い出す。
あいつ、あっちもこっちも、もの珍しげに、覗いてみて歩いて帰ったな・・・。あちこち、ぐるぐるとまわった形跡がある。明月が通り過ぎて来たところの中でも、ちょっと毛色の変った演出をする占いの店の前で、いくつか、微かに残り香があった。それにしても、こんなに長く残っているものなのか・・・?彼女が、それほど強く香りをつけているようには思えなかったが。魔よけでもあると言っていたから、不思議な効力でも発揮しているのだろうか・・・・。・・・・・?また、立ち止まる。
ここは、幽斎の所だ。けれど、幽斎のところは、はやってはいるが、明月と同じ、ありきたりな占いである。足が止まる。
「やあ。明月君。」
幽斎が出てきた。
「こんにちは。幽斎さん、今日はもう、終わりですか?」
「うん。今日はなんだか、疲れてしまって・・・。」
幽斎が答える。明月が鼻をくんとさせ、瞳を泳がせたのを見て、幽斎が穏やかに頷きながら、中を指さした。あ・・・リースだ。幽斎の机にのっている。明月が幽斎の方を見た。
「今朝、君が連れていた子だろう?あちこちの看板をおもしろそうに眺めていて、たまたま目があってしまってねえ。声をかけたら、そのハーブのリースをくれた。」
「・・・・・何か、ご迷惑おかけしませんでしたか。」
明月が、恐縮する謂われはないのだが、ここまで連れてきてしまったのは確かだ。彼女独特のペースに、振り回される人もいるだろうと、思う。
「いや、そんなことはないよ。どんな所が集客力があるのか、興味があるみたいだった。彼女かい?いや、大人になった・・・あの、けんかして道に転がっていた、やんちゃ坊主が、なあ。」
幽斎は目を細めた。明月は居心地の悪そうな、ばつの悪い表情をしている。疲れたと言っていたので、具合が悪いのかと話題を変えようと明月は訊いた。年寄りだからなと、返事が返ってきた。夕飯を一緒に食べに行くことになる。幽斎が中から、コートをとって来る。その時、明月の鼻をかすめたものがある。ふわんと、ハーブの・・・・。しかしこれは、有り得ないことだ。仕舞われてあったコート。それに、香の煙を燻らしたように立ち昇った気配・・・・。明月の頭に忘れていた記憶が浮かび上がった。昼と夜とを行ったり来たりしているような瞳を思い出す。