清盛は、暗躍したことで、美福門院の信頼をさらに深めた。そのことは、彼女が押した後白河天皇との結びつきに繋がり、出世の糸口を得た。
泰親も、派手に退魔をやってみせたおかげで、高い評価を受ける陰陽師としての伝説を得て、その後の活躍の一助となる。
けれど一官人としては、かなり僭越な行為で、後で、陰陽頭の賀茂在憲に陳謝したが。
在憲は、好々爺然として肯きながら、聞いていた。
今、泰親は、廂に座って杯を傾けながら、杯に映った月を見ている。あの時、話を聞き終わって、在憲は細い目を開けて視線をじっと、泰親にあてて言った。
「わしの面子のことなら構わんよ。動いたのは、泰親だけだったな・・・。」
にやりと笑い。子供が悪戯をしたあとのような顔をした。それから、さも、今思いついたかのように、話題を変えた。
「ところで、わしの親戚に、年ごろの良い娘がいるのじゃが・・・・。父親も陰陽師をやっておったのだが、出家してしまってのう。母御が亡くなられているので、頼りない身の上なのだ。それで、しっかりした人にもらって欲しいと思っているのだが・・。」
「・・・・・・・・。」
「誰でも、というわけにはいかんのだ。その娘、少々お転婆でのう。今回は、迷惑をかけたようだな。」
「!」
もしかして、仕組んだのは彼ではないか。そう思ったくらい、泰親は驚かされた。人の良い笑いを浮かべる在憲の顔を見つめながら、もしかして、最初から、ある程度見通していたのではないかと、疑った。さすがに、そんなこともないだろうが、この人の良い顔は、意外と食えぬ。
ざざあ・・・・・。風の音が思考を遮った。
「風の音がしますわね。この風変わりな瓶子。」
彩が、酒の肴を運んできて、隣に座り、酒の入った瓶子を面白そうに傾けて、音に聞き入っている。
「清盛どのは、波の音だと言っていた。」
割れもせず、浜に流れ着いた瓶子は、清盛の手に渡った。
清盛は、鳥羽上皇が崩じたあと、保元・平治と立て続けに起こった乱で勝ち残って、今や藤氏を差し置いて、破竹の勢いだ。
泰親は、杯を差し出す。彩が酒を注ぐと、瓶子は傾き、何ともいえぬ音が渦巻く。
「・・・それは、清盛どのへの、海の神からの気まぐれな贈り物かもしれないな。」
「そうなのかしら・・・風の音に聞こえますけど。」
目を瞑って、音に聞き入りながら、彩が答える。
泰親は、うすい笑みを浮かべて、杯に映った月を指でちょっと弾いた。
今、泰親が始めて携わった護身剣は、清盛のもとにある。
おわり
泰親も、派手に退魔をやってみせたおかげで、高い評価を受ける陰陽師としての伝説を得て、その後の活躍の一助となる。
けれど一官人としては、かなり僭越な行為で、後で、陰陽頭の賀茂在憲に陳謝したが。
在憲は、好々爺然として肯きながら、聞いていた。
今、泰親は、廂に座って杯を傾けながら、杯に映った月を見ている。あの時、話を聞き終わって、在憲は細い目を開けて視線をじっと、泰親にあてて言った。
「わしの面子のことなら構わんよ。動いたのは、泰親だけだったな・・・。」
にやりと笑い。子供が悪戯をしたあとのような顔をした。それから、さも、今思いついたかのように、話題を変えた。
「ところで、わしの親戚に、年ごろの良い娘がいるのじゃが・・・・。父親も陰陽師をやっておったのだが、出家してしまってのう。母御が亡くなられているので、頼りない身の上なのだ。それで、しっかりした人にもらって欲しいと思っているのだが・・。」
「・・・・・・・・。」
「誰でも、というわけにはいかんのだ。その娘、少々お転婆でのう。今回は、迷惑をかけたようだな。」
「!」
もしかして、仕組んだのは彼ではないか。そう思ったくらい、泰親は驚かされた。人の良い笑いを浮かべる在憲の顔を見つめながら、もしかして、最初から、ある程度見通していたのではないかと、疑った。さすがに、そんなこともないだろうが、この人の良い顔は、意外と食えぬ。
ざざあ・・・・・。風の音が思考を遮った。
「風の音がしますわね。この風変わりな瓶子。」
彩が、酒の肴を運んできて、隣に座り、酒の入った瓶子を面白そうに傾けて、音に聞き入っている。
「清盛どのは、波の音だと言っていた。」
割れもせず、浜に流れ着いた瓶子は、清盛の手に渡った。
清盛は、鳥羽上皇が崩じたあと、保元・平治と立て続けに起こった乱で勝ち残って、今や藤氏を差し置いて、破竹の勢いだ。
泰親は、杯を差し出す。彩が酒を注ぐと、瓶子は傾き、何ともいえぬ音が渦巻く。
「・・・それは、清盛どのへの、海の神からの気まぐれな贈り物かもしれないな。」
「そうなのかしら・・・風の音に聞こえますけど。」
目を瞑って、音に聞き入りながら、彩が答える。
泰親は、うすい笑みを浮かべて、杯に映った月を指でちょっと弾いた。
今、泰親が始めて携わった護身剣は、清盛のもとにある。
おわり