今日は、友人を連れているので、直接声をかけないほうがいいのだろうか、それとも、いつものように、はきはきと答えてしまおうかとゆりは、考えていた。
ちょいちょいと、目を大きく見開いたまとのが、ゆりの袖を引いて、外を注視している。時貞の友人を見ている。ゆりも、じっと見てみると・・・・。
「雨水(うすい)・・・。」
雨水(うすい)が、狩衣姿で座っている。元服して、垂らしてくくっていた髪を切り、髻を結って、烏帽子を頭に乗せている。
雨水(うすい)が、ゆりの声を聞いて、懐かしさに目を細める。ゆりは、ささっと御簾をあげて、外へ姿を現してしまった。
時貞がその様子を見て、苦笑した。
「やれやれ、困ったものだ。今日は、親王様として紹介するか、陰陽寮につとめている陰陽師として紹介するか、迷っていたのだが、後者だな。」
「え。どういうこと?」
確か、院の暴挙を止めた御子として、帝より、特別後ろ盾がないままではあるが、親王宣下がおりた。彼は、表向きは今はずっと臥せっている父の院の静養を世話するために、裏の理由は、身柄を責任を持って預かるということで、表の官職につくことはないけれど、生活が保障された。そこまでの、事情は、ゆりも父から、聞かされたので知っていた。
「ええ。顔を知られることもありませんから、二重生活でしょうか。本当は、一介の陰陽師として、父の贖罪を含めて、人の役に立ちたいと願ったら、このような処置がおりたのです。いちおう、出歩く時は、薫風どのの従兄弟ということで、彼に教わって陰陽師になるために勉強しています。普段は、まだ、学生です。」
「それは・・・いいこと・・って言って、いいのかしら・・・。」
「こうして、雨水(うすい)のままで、ゆりさまにも、会えますしね。」
元服して、様が変わったせいか、雨水(うすい)は、同じように笑っていても、前より大人びて見える。ゆりは、瞬時戸惑いを覚えながらも、すぐに、気を取り直して言った。
「そうだ。ねえ、笛を聞かせてよ。雨水(うすい)の音色が聴けなくなって、ちょっと残念だったもの。」
「それなら、筝をゆり姫があわせて弾いたらいいのじゃないか。」
時貞が、言い添えて、筝が運ばれ、ひととき、美しい音色が邸内に響いた。明るい音にみちた二つの響きは、いつまでも、追いかけっこを楽しむように響いた
おわり
作中の和歌
年ごとに人はやらへど目にみえぬ心の鬼はゆく方もなし 賀茂保憲女
(毎年毎年 鬼に扮した人は追い払うけれども
目に見えない鬼はどこへも追いやる方途がない)
訳は、いつもの通り 千人万首から
???・・・・彼女、余程、悩みの深い人生を送った人なのだろうか。
この歌の詠まれた時の作者の心境や、状況がわからないのでなんとも言えないが・・・。賀茂保憲って、あの、陰陽師だよね。その娘の作となると、何だか想像膨らんじゃって・・・。この時代、呪いとか日常茶飯事だったみたいだから、案外、「いい加減にしろよ、お前ら。祓っても祓っても、心の中にいくらでも欲を抱え込みやがって、きりがないだろう。」とか、当てこすりだったりして・・・。
ちょうど、平安時代を舞台にしてまた、変な陰陽師のでるお話を書きたいなと思っていたので、この歌を使わせてもらいました。
人物像を弱冠モデルにしようと思っていた人物がいたけれど、結局、違ってしまったので、キャラ達には、皆、モデルはありません。・・・一応。
こんな変なお話に最後まで、付き合って下さった方、ありがとうございます。
次も、きっと変な話・・・。
みん兎
ちょいちょいと、目を大きく見開いたまとのが、ゆりの袖を引いて、外を注視している。時貞の友人を見ている。ゆりも、じっと見てみると・・・・。
「雨水(うすい)・・・。」
雨水(うすい)が、狩衣姿で座っている。元服して、垂らしてくくっていた髪を切り、髻を結って、烏帽子を頭に乗せている。
雨水(うすい)が、ゆりの声を聞いて、懐かしさに目を細める。ゆりは、ささっと御簾をあげて、外へ姿を現してしまった。
時貞がその様子を見て、苦笑した。
「やれやれ、困ったものだ。今日は、親王様として紹介するか、陰陽寮につとめている陰陽師として紹介するか、迷っていたのだが、後者だな。」
「え。どういうこと?」
確か、院の暴挙を止めた御子として、帝より、特別後ろ盾がないままではあるが、親王宣下がおりた。彼は、表向きは今はずっと臥せっている父の院の静養を世話するために、裏の理由は、身柄を責任を持って預かるということで、表の官職につくことはないけれど、生活が保障された。そこまでの、事情は、ゆりも父から、聞かされたので知っていた。
「ええ。顔を知られることもありませんから、二重生活でしょうか。本当は、一介の陰陽師として、父の贖罪を含めて、人の役に立ちたいと願ったら、このような処置がおりたのです。いちおう、出歩く時は、薫風どのの従兄弟ということで、彼に教わって陰陽師になるために勉強しています。普段は、まだ、学生です。」
「それは・・・いいこと・・って言って、いいのかしら・・・。」
「こうして、雨水(うすい)のままで、ゆりさまにも、会えますしね。」
元服して、様が変わったせいか、雨水(うすい)は、同じように笑っていても、前より大人びて見える。ゆりは、瞬時戸惑いを覚えながらも、すぐに、気を取り直して言った。
「そうだ。ねえ、笛を聞かせてよ。雨水(うすい)の音色が聴けなくなって、ちょっと残念だったもの。」
「それなら、筝をゆり姫があわせて弾いたらいいのじゃないか。」
時貞が、言い添えて、筝が運ばれ、ひととき、美しい音色が邸内に響いた。明るい音にみちた二つの響きは、いつまでも、追いかけっこを楽しむように響いた
おわり
作中の和歌
年ごとに人はやらへど目にみえぬ心の鬼はゆく方もなし 賀茂保憲女
(毎年毎年 鬼に扮した人は追い払うけれども
目に見えない鬼はどこへも追いやる方途がない)
訳は、いつもの通り 千人万首から
???・・・・彼女、余程、悩みの深い人生を送った人なのだろうか。
この歌の詠まれた時の作者の心境や、状況がわからないのでなんとも言えないが・・・。賀茂保憲って、あの、陰陽師だよね。その娘の作となると、何だか想像膨らんじゃって・・・。この時代、呪いとか日常茶飯事だったみたいだから、案外、「いい加減にしろよ、お前ら。祓っても祓っても、心の中にいくらでも欲を抱え込みやがって、きりがないだろう。」とか、当てこすりだったりして・・・。
ちょうど、平安時代を舞台にしてまた、変な陰陽師のでるお話を書きたいなと思っていたので、この歌を使わせてもらいました。
人物像を弱冠モデルにしようと思っていた人物がいたけれど、結局、違ってしまったので、キャラ達には、皆、モデルはありません。・・・一応。
こんな変なお話に最後まで、付き合って下さった方、ありがとうございます。
次も、きっと変な話・・・。
みん兎