翌日、明るくなって憶のもたらした私信(てがみ)を読んだ李白の顔に、驚きが広がった。
憶の師匠、楊賢弟からのものは、消息をうかがう、いつもの内容だった。
だが、もう一通の、王維からの物は・・・。
「・・生きてる・・?」
古き友、王維が、もたらした報は、晁衡(ちょうこう)の無事を伝えるものだった。
晁衡(ちょうこう)の、国に帰る為の、船は、嵐に遭い、一度は海の底に沈んだものと思われていたのだが、南方へ漂着して、助かったのだ。南へ流されていく船は、だいたい、福州のさらに南、現在のベトナム辺りまで流されることが、多く、ヘタをすると、国境を越えてしまい、その為、帰国もままならないこともあるが、晁衡(ちょうこう)たちの船は、幸運なことに、ぎりぎり、唐の領内、安南に流れついた。長安へも、帰路が確保されていた。
王維は、唐の中枢にいる役人なので、いち早く、その報を知ることができた。一方、漂泊の身の李白には、知るよしもなく、彼が友を偲び、哀悼の詩を詠んだことを聞き及んだ、王維が、気を利かせて、ちょうど、李白を訪ねる、という人に託して、報をもたらしたのだ。
李白は、その奇跡の報をもたらした、憶の肩を叩いたり、白髪混じりの、大きな男が、子供のように、無邪気に小躍りしながら、大喜び。
ついに、悲しみでキレたか・・と、内容を知らない、憶は、不審な表情で彼を窺っている。喜びで、いっぱいの李白は、そんな憶のことはお構いなしだ。
空を仰ぐ。
「天よ・・・。」
奇跡とは、驚きと、斯くも、うれしい興奮をもたらすものか・・・!
詩人の彼でも、それを言い表す、適切な言葉は、すぐには、出て来そうもない。
驚きに満ちたこの、喜びも、それまでの悲しみも、友を思う心。
李白が、先に詠った悲しみの詩は、以下のとおりだ。
哭晁卿衡 晁卿衡を哭す
日本晁卿辞帝都 日本の、晁卿、帝都を辞す
征帆一片繞蓬壺 征帆、一片、蓬壺を繞る
明月不帰沈碧海 明月、碧海に沈み、帰らず
白雲愁色満蒼梧 白雲愁色、蒼梧に満つ
(日本の、晁衡(ちょうこう)殿は、長安に別れを告げ、
国を発った、船は、蓬莱を巡り、
明月のような男は、碧海に沈み、国に帰ることはない。
白雲が、悲しみが満ちるように、蒼い空を覆っているよ。)
おわり
伝説の人、李白の出てくるお話を書いてみました・・。
李白の詩は、有名ですが、生涯は謎に満ちています。西域で生まれ、四川で育ち、若い頃、遊侠の士を気取り、仙人にもあこがれたとか。玄宗に仕えていますが、科挙を受けたわけではなく、人のつてで、翰林院に勤めたが、それも、ほんの数年で、讒言により、投獄。すぐに赦されているようですが、朝廷へ戻ることなく、諸国放浪へ。安氏の変の時は、玄宗の息子の、軍師やってたり・・。けれども、それがもとで、また、投獄、以後は、表舞台にでることはなかったようですが、元気に、あちこち巡っていたようです。
ほとんど謎に満ちて・・という生涯が、ミソですね。
取り敢えず、完結ですが、李白のお話は、まだ他にも、書きたいのがあるので、
追加した、「酔夢遊歴」というカテゴリーに、加えて行けたらなあ・・なんて思ってます。
アクセスありがとうございます。みん兎 <(_ _)>
憶の師匠、楊賢弟からのものは、消息をうかがう、いつもの内容だった。
だが、もう一通の、王維からの物は・・・。
「・・生きてる・・?」
古き友、王維が、もたらした報は、晁衡(ちょうこう)の無事を伝えるものだった。
晁衡(ちょうこう)の、国に帰る為の、船は、嵐に遭い、一度は海の底に沈んだものと思われていたのだが、南方へ漂着して、助かったのだ。南へ流されていく船は、だいたい、福州のさらに南、現在のベトナム辺りまで流されることが、多く、ヘタをすると、国境を越えてしまい、その為、帰国もままならないこともあるが、晁衡(ちょうこう)たちの船は、幸運なことに、ぎりぎり、唐の領内、安南に流れついた。長安へも、帰路が確保されていた。
王維は、唐の中枢にいる役人なので、いち早く、その報を知ることができた。一方、漂泊の身の李白には、知るよしもなく、彼が友を偲び、哀悼の詩を詠んだことを聞き及んだ、王維が、気を利かせて、ちょうど、李白を訪ねる、という人に託して、報をもたらしたのだ。
李白は、その奇跡の報をもたらした、憶の肩を叩いたり、白髪混じりの、大きな男が、子供のように、無邪気に小躍りしながら、大喜び。
ついに、悲しみでキレたか・・と、内容を知らない、憶は、不審な表情で彼を窺っている。喜びで、いっぱいの李白は、そんな憶のことはお構いなしだ。
空を仰ぐ。
「天よ・・・。」
奇跡とは、驚きと、斯くも、うれしい興奮をもたらすものか・・・!
詩人の彼でも、それを言い表す、適切な言葉は、すぐには、出て来そうもない。
驚きに満ちたこの、喜びも、それまでの悲しみも、友を思う心。
李白が、先に詠った悲しみの詩は、以下のとおりだ。
哭晁卿衡 晁卿衡を哭す
日本晁卿辞帝都 日本の、晁卿、帝都を辞す
征帆一片繞蓬壺 征帆、一片、蓬壺を繞る
明月不帰沈碧海 明月、碧海に沈み、帰らず
白雲愁色満蒼梧 白雲愁色、蒼梧に満つ
(日本の、晁衡(ちょうこう)殿は、長安に別れを告げ、
国を発った、船は、蓬莱を巡り、
明月のような男は、碧海に沈み、国に帰ることはない。
白雲が、悲しみが満ちるように、蒼い空を覆っているよ。)
おわり
伝説の人、李白の出てくるお話を書いてみました・・。
李白の詩は、有名ですが、生涯は謎に満ちています。西域で生まれ、四川で育ち、若い頃、遊侠の士を気取り、仙人にもあこがれたとか。玄宗に仕えていますが、科挙を受けたわけではなく、人のつてで、翰林院に勤めたが、それも、ほんの数年で、讒言により、投獄。すぐに赦されているようですが、朝廷へ戻ることなく、諸国放浪へ。安氏の変の時は、玄宗の息子の、軍師やってたり・・。けれども、それがもとで、また、投獄、以後は、表舞台にでることはなかったようですが、元気に、あちこち巡っていたようです。
ほとんど謎に満ちて・・という生涯が、ミソですね。
取り敢えず、完結ですが、李白のお話は、まだ他にも、書きたいのがあるので、
追加した、「酔夢遊歴」というカテゴリーに、加えて行けたらなあ・・なんて思ってます。
アクセスありがとうございます。みん兎 <(_ _)>