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いつだって感じる
アナタとワタシの距離は
近いようで遠いようで
でもそれが大事で大切な
アナタとワタシの距離

アンダースロー

2010年04月08日 19時12分21秒 | 物語系
ナ:さぁ大詰めをむかえました、ティッシュ・スロー大会。Aブロック準決勝の勝敗が今決まろうとしております。解説は引き続き元ティッシュ・スロー世界チャンピオンの飛山 投太郎さんです。飛山さん、よろしくお願いします。

飛:よろしくどうも。

ナ:飛山さん、今日の入江選手は少し調子が悪いように思えるのですが。

飛:そうですね、準々決勝のような勢いがあまり見られませんね。

ナ:あ、今入ってきた情報によりますと、入江選手はお腹を下し、トイレットペーパーの使い過ぎによる、指の酷使があったもようです。飛山さん、入江選手の指は大丈夫なんでしょうか。

飛:ティッシュ・スローで大事なのは、最後までコントロールが要求される指ですからね。準決勝はどちらが先に7ポイント入れるかが長期戦になりそうですね。

ナ:入江選手の対戦相手、トンデモート・ハイリマース選手は波のある選手。只今第八投目。入るか。入りました、トンデモート選手。大きな歓声ともにガッツポーズをしております。

飛:彼の投げ方はオーバースローなんですね。鼻をかんだ鼻水の量が多いと、投げやすくなるんです。今までのトンデモート選手は鼻水の量が少なかったですが、聞くところによると去年から日本に来て花粉症になったみたいですね。一朝一夕で花粉症と戦いながらの集中力は持続できないんですが、彼の努力がそれを凌駕したんでしょう。

ナ:さぁトンデモート選手がここでポイントを2つ離し、3‐5でリーチをかけました。入江選手の表情が…やや曇り気味ですね。どうやら…、コーチが入江選手の指にテーピングをしているのでしょうか。トイレットペーパーによる指の酷使が響いているのでしょうか。コーチはなにやら止めようとしていますね。入江選手は拒んでいるのでしょうか。顔を真っ赤にして怒っているようですね。

飛:彼にとってはこの大会がラストチャンスですからね。ここは何がなんでも続行をしたいのでしょう。

ナ:入江選手がベンチから立ち上がりサークルポジションへ向かいますね。おっと大歓声が巻き起こっています。さぁ入江選手、鼻をかみ、構えました。第九投目、入るか。入りました。ポイントを1つ縮めて、4‐5。一つ大きなため息をついた入江選手。やや上を見上げていますが…。あ、情報が入ってきました。どうやら入江選手の奥さんが産婦人科にいるようですね。子供が産まれるようです。

飛:気が気じゃないでしょう。

ナ:さ、入江選手。産まれてくる子供のために、あの黄金のティッシュトロフィーを見せることができるのでしょうか。

-CM-


-その後3時間の長丁場を終え、入江は病院へ。ドアを勢いよく開ける。

入:産まれたのか!?

嫁:ええ。立派な男の子よ。あなたにそっくり。

入:男の子…。

入江は涙を流して喜び、

入:この子をティッシュ・スローターにしようと思うんだ!どうかな!

嫁はニコりと笑いながら、

嫁:それはないわ。

入:そ…そうだよね。は、はは。

右手に持っていた銀のティッシュトロフィーを落として、気まずい雰囲気を醸し出しながら笑う入江。
鬼のようなオーラを纏いながら、女神のように笑う嫁。
その空気に関係なくスヤスヤと眠る赤ん坊。
夕暮れに、カラスが「カァー」と泣いていた。




END

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