総選挙が佳境に入るにしたがって、秋が
ますます深まって来た。
大濠公園は世の喧騒をよそに、静かに季
節の移ろいを受け入れている。
水鳥の数も種類も増してきた。
さやと吹く風に岸の柳が微かに揺れた。
旧友と池を巡りながら、行く末を語る。
渦中の人は、常にコップの中にある。
かつては当事者同士の戦いに民衆が巻き
込まれていた。
民主主義は、民衆がコップの外側にいる
ことを許した、審判の日まで。
しかし、いつまでも嵐の外にいることは
許されないのである。
票を投じると言う義務を果たした時に、
外にいることを許された責めを負う。
義務を放棄すれば、将来の如何なる運命
をも、受け入れざるを得ないのである。
我々の会話がそこまで至った時、二人の
老兵の間に沈黙が流れた。
〈うそ寒や 湖面を渡る 赤い風〉放浪子
季語・うそ寒(秋)
10月17日〔火〕小雨のち晴れ
旧友が帰って行った。
清々しく帰って行った。
信念の赴くままに微力を尽くして
ことを終えた満足げな笑みを残して。
彼は最後にこう言った。
「後は若い者次第さ」