岩切天平の甍

親愛なる友へ

テネシー・リバー・バレー

2007年07月24日 | Weblog

アラバマ北部のテネシー川周辺はテネシー・リバー・バレーと呼ばれている。そこでコーン農場を営むデニスさんを訪ねた。

広大な敷地にあるファームハウスの事務所で奥さんと五歳の息子、玉のような赤ちゃんが迎えてくれた。おばあちゃんがにこにことゆりかごをゆすっている。
「この辺りはね、宇宙産業が盛んで、ロケットや米軍が使っているミサイルのほとんどを作っているの。だから住民は比較的豊かで、アラバマでも南の方の、あなた達がアラバマって聞くと持つ、差別とか貧困とか、そういうイメージとはとても違うのよ。ダメよ、そういう風に思っちゃ。」
「ハイ・・・わかりました。ミサイル、ですか・・・。」

「デニスさん、おいくつですか?」
とコーディネーターのRさん(女性)が訊く。
「三十七歳だよ。君は?」
「へー、ずいぶん若く見えますね。私は三十二です。」
「ふーん。」
僕:「そこで『君もね』っていわなきゃだめじゃない『ふーん』じゃなくってさ。」
デニス:「あはは、『二十五?二十六かな?』って?」
ゆるやかな南部訛りが暖かく心地よい。
しつこく撮影するテレビクルーにいやな顔一つ見せず、マイ・ペースで畑を案内してくれる。
僕はトラックの荷台に捕まって風に目を細めながら、飛び去って行くコットン畑をカメラでつかまえようとしてはうまくいかず、ぼんやりと考える。撮影は人が生きて行くのに似てるかもしれない。目の前に初めて現れては消えて行く風景を掴みそこねて、二度とそこに戻ることは出来ない。そしていくらか美化された記憶だけが残る。「ホントはもう少し良かったんだけどね。」なんて。

ひと息ついて、近所のレストランでお昼を食べる。
ウェイトレス:「飲み物は?」
デニス:   「ティー。」
ウェイトレス:「甘いの?甘くないの?」
デニス:   「甘くないやつ。」
僕:     「僕もそれ。」「あー、ちょっと待って。僕のはアイスでお願いね。」
デニスが小声で
「サウスじゃ、ティーって言うといつもアイスが出てくるんだよ。」
と笑う。

善意と勤勉と幸福に満ちた人々が自然と手を取り合って暮らしている。ファーマーとは、もしもそれが本当にあるとすれば“神”に最も近く生きる人達なんだろうと思う。
その、この上なく美しく生きる人たちが「ミサイルはみんなここで作っているのよ。」と無邪気に言うのを聞く時、僕は戸惑ってしまう。

モーテルの向かいのショーグン・レストランで夕食。
テネシーワルツを口ずさみながら帰る。

テネシーワルツ

http://youtube.com/watch?v=-l2jF6XePz4&mode=related&search=