本書の著者森本孝二は、関西大学経済学部教授。専門は株式会社論、企業社会論、労働時間論である。これら三つの専門分野は、一見無関係かのように見える。しかし、本書のテーマ「働きすぎ」は、これら専門分野の何れにも大いに関係が深い。
本書は今日の社会を「働きすぎ」というキーワードで多角的。実証的に分析している。このため説得力があり、かつユニークな啓蒙書となっている。過労死が社会問題とされるようになってから久しい。2002年1月、『オックスフォード英語辞典』のオンライン版に、新語「karoshi」が新たに登録されたとのこと(本書27ページ)。この単語は、もちろん日本語の「過労死」から来ている。過労死の背後には、残業手当なしで仕事をする、所謂サービス残業が存在する。最近では、残業手当不払いの企業が公表されるようになった。中部電力、東京電力のように、っその総額が60億円以上に達するケースもある。サービス残業がやりにくくなると、企業の側は早朝出勤を強いるようになる。昨年、ある経済雑誌が早朝出勤する社員の列を捉えた写真を掲載して「早朝出勤」の告発を行っていたことを思い出した。
休日もなく、早朝から深夜まで働き続けるIT技術者。外食産業やコンビにで深夜労働するパート社員やフリーターたち。連日の超過労働勤務にもかかわらず高速道路を猛スピードで走る長距離トラック運転手。そして、死者が多数出る高速道路上での悲惨な大事故。午後8時の消灯後、パソコンの光で密かに残業を続ける社員たち。大学教授として学生を教育し社会に送り出す。これは著者の仕事であり氏名でもある。ところが、卒業生たちは”企業戦士”として働きすぎの世界に埋没、家庭・家族を犠牲にし、健康を害し、ひいては心の健康(例えば、鬱病)までも害してしまう。恐らく、そんな身近な危機感もあったに違いない。全編に、著者の怒りと苦悩が感じられる。人口が減る、若年者がなかなか結婚しない(結婚できない)、フリーターやニートが増加する、高速道路での居眠り運転による死傷者続出。そして、福知山線の脱線事故もJR西日本の収益第一のスピード競争や余裕のないダイヤ編成だけが原因ではなく、それを肯定した利用者の側にも「働きすぎ」の問題が横たわっていたと著者は指摘する。一刻も早く職場に到着したい、遅刻すると会議や商談に遅れ、ひいては人事評価に響く。そう考えて、鉄道会社に無理なダイヤ編成や定時発車を無言のうちに強いてきたのではなかろうか。そうなると、止んでいるのは、一人の従業員、一会社だけでなく”社会全体”ということになろう。
著者は、以上のように容赦なく拡大する「働きすぎ」の原因を解明し、それに一定の歯止めをかけなければならないという立場にたつ。最後の終章(働きすぎにブレーキをかける)では、働きすぎの結果として生じる数々の問題点と弊害をとりまとめ、?そのうえで「働きすぎの防止の指針と対策」として具体的な提案を行っている。これらの提言は、?労働者、?労働組合、?企業、?法律と制度の4者それぞれの立場からの提言となっている。
(二〇〇五年、岩波新書、七八〇円+税)
本書は今日の社会を「働きすぎ」というキーワードで多角的。実証的に分析している。このため説得力があり、かつユニークな啓蒙書となっている。過労死が社会問題とされるようになってから久しい。2002年1月、『オックスフォード英語辞典』のオンライン版に、新語「karoshi」が新たに登録されたとのこと(本書27ページ)。この単語は、もちろん日本語の「過労死」から来ている。過労死の背後には、残業手当なしで仕事をする、所謂サービス残業が存在する。最近では、残業手当不払いの企業が公表されるようになった。中部電力、東京電力のように、っその総額が60億円以上に達するケースもある。サービス残業がやりにくくなると、企業の側は早朝出勤を強いるようになる。昨年、ある経済雑誌が早朝出勤する社員の列を捉えた写真を掲載して「早朝出勤」の告発を行っていたことを思い出した。
休日もなく、早朝から深夜まで働き続けるIT技術者。外食産業やコンビにで深夜労働するパート社員やフリーターたち。連日の超過労働勤務にもかかわらず高速道路を猛スピードで走る長距離トラック運転手。そして、死者が多数出る高速道路上での悲惨な大事故。午後8時の消灯後、パソコンの光で密かに残業を続ける社員たち。大学教授として学生を教育し社会に送り出す。これは著者の仕事であり氏名でもある。ところが、卒業生たちは”企業戦士”として働きすぎの世界に埋没、家庭・家族を犠牲にし、健康を害し、ひいては心の健康(例えば、鬱病)までも害してしまう。恐らく、そんな身近な危機感もあったに違いない。全編に、著者の怒りと苦悩が感じられる。人口が減る、若年者がなかなか結婚しない(結婚できない)、フリーターやニートが増加する、高速道路での居眠り運転による死傷者続出。そして、福知山線の脱線事故もJR西日本の収益第一のスピード競争や余裕のないダイヤ編成だけが原因ではなく、それを肯定した利用者の側にも「働きすぎ」の問題が横たわっていたと著者は指摘する。一刻も早く職場に到着したい、遅刻すると会議や商談に遅れ、ひいては人事評価に響く。そう考えて、鉄道会社に無理なダイヤ編成や定時発車を無言のうちに強いてきたのではなかろうか。そうなると、止んでいるのは、一人の従業員、一会社だけでなく”社会全体”ということになろう。
著者は、以上のように容赦なく拡大する「働きすぎ」の原因を解明し、それに一定の歯止めをかけなければならないという立場にたつ。最後の終章(働きすぎにブレーキをかける)では、働きすぎの結果として生じる数々の問題点と弊害をとりまとめ、?そのうえで「働きすぎの防止の指針と対策」として具体的な提案を行っている。これらの提言は、?労働者、?労働組合、?企業、?法律と制度の4者それぞれの立場からの提言となっている。
(二〇〇五年、岩波新書、七八〇円+税)