「紫けむる新雪の」で始まる「新雪」。灰田勝彦さんが歌い、今でも懐メロとして親しまれており、カラオケで歌うことも可能である。この歌は映画「新雪」(一九四二年・大映)の主題歌だ。ところが、その映画を見ることはできない。そのことを知ったのは、今から三十年近く前のことである。戦時中の一九四二年に制作の映画「新雪」は、「時局」の反映はあるが、カテゴリーとしては青春映画。こんな映画を見ると、若い男たちは戦争に行くのが厭になる。そんなことから、軍部の手により焼却された。これが、映画フィルムが存在しない理由だったらしい。ところが、最近になって「新雪」のフィルムの一部がモスクワにあることが分かり、そのコピーが購入され、ロケ地神戸で映写会が持たれるようになった。戦時中、中国大陸に慰問のために送られていた「新雪」のフィルム。これが、ソ連(当時)の手に渡り、現在まで保存されてきたのだろう。そのお蔭で、「一生見ることができない」と諦めていた映画「新雪」の一部分を今年の四月に見る機会を得た。
映画「新雪」の原作は、藤沢恒夫さんの同名の小説。一九四一年に朝日新聞に連載された。小説連載の翌年、五所平之助監督のもとに映画化されたものである。小説の方は、一時期まで角川文庫版(初版一九五七年)で読めたが、入手できなくなって久しい。「新雪」は、阪急六甲駅とその周辺が舞台。映画では近年取り壊された高羽小学校の映像が何度も出てくる。高羽小学校在校生もエキストラとして参加したが、恋愛がテーマの映画であることから、たとえ父兄同伴でも戦時中は観賞禁止だった。ところが、この子供たちが大人になった頃には映画フィルムの現物がない。文字通り「幻の映画」だった訳である。
映画「新雪」の原作は、藤沢恒夫さんの同名の小説。一九四一年に朝日新聞に連載された。小説連載の翌年、五所平之助監督のもとに映画化されたものである。小説の方は、一時期まで角川文庫版(初版一九五七年)で読めたが、入手できなくなって久しい。「新雪」は、阪急六甲駅とその周辺が舞台。映画では近年取り壊された高羽小学校の映像が何度も出てくる。高羽小学校在校生もエキストラとして参加したが、恋愛がテーマの映画であることから、たとえ父兄同伴でも戦時中は観賞禁止だった。ところが、この子供たちが大人になった頃には映画フィルムの現物がない。文字通り「幻の映画」だった訳である。