久谷與四郎著『事故と災害の歴史館―“あの時”から何を学ぶか』
本書の著者である久谷與四郎(くたに・よしろう)氏は、労働評論家で労働問題で幅広く評論活動を行っている。1960年に上智大学新聞学科卒業、読売新聞社会部記者として、長らく労働問題を担当してきた。論説委員。労務部長、総務局長などを経て、役員待遇・北海道支社長。退職後、2003年まで日本労働研究機構理事を務める。主な著書として『労働界見聞録』(1981年、東洋経済新報社)、『労働組合よ しっかりしろ』(2000年、日本リーダーズ協会)がある。本書では、新聞記者として労災事故に関わってきた著者が,過去の事故と災害から何を学んできたかを検証している。扱われる事案は、何れも大きな被害をもたらし、その後再発を防止するための対策が再三とられてきて,被害を食い止められてきているケースが多い。トンネル事故、火災、ガス爆発、硫化水素事故、化学物質災害、ケーソン事故、タービン破裂、鉄道事故等々。その後の関係者の人生や証言を元に,更に労働行政にどのように反映されたのかをレポートしている。以下は、本書目次の抄録。
第1章 トップの経営姿勢が招いた災害
大清水トンネル事故の火災、JCO臨界事故、熊本・大洋デパートの火災
第2章 イベントを意識してムリな工事
広島新交通システム工事の橋げた落下、大阪天六ガス爆発
第3章 "ささいな”引き金が招いた重大な結果
御徒町トンネル工事の噴発事故
第4章 化学物質災害の恐ろしさ
染料工場の膀胱ガン(ベンジジン中毒)、ぼすとん丸事件(4エチル鉛中毒)
第5章 安全衛生行政の礎に
足尾町民の「ヨロケ」撲滅の訴え、ヘップサンダル事件
第6章 技術進歩と災害
新四ツ木橋事故、丹那トンネル事故
第7章 社会や産業の変化の中で
ロボット殺人、白ろう病、三池炭坑の炭じん爆発
第8章 事故を風化させないための努力
タービンローターの破裂、国鉄三河事故、コンビナート爆発火災
30年くらい前までは、一度に数百人の単位で死者がでる事故が多発していた。それに比べると,最近は労災での死者数は少なくなっている。その減り方は,交通事故や労働以外の疾病に比べると顕著だ。多くの尊い人命の犠牲のもとに、その教訓がいかされてきたからである。犠牲が出た事故では慰霊碑が建てられることが多い。これは、再び事故を起こさせないという決意の表明である。憂慮すべきは、その教訓が風化しつつあること。団塊の世代のリタイアにより,悲惨な災害の伝承が絶たれようとしている。慰霊碑のなかには、河川の改修工事で埋められるという”信じられない仕打ち”に遭遇している実態もある。また、著者が指摘している「トップの経営姿勢が、これほどまで会社のモラルハザードを引き起こすものか、ということも実感しました。逆に言えば、トップの姿勢いかんで会社全体の安全度を格段に向上させることも可能だ、ということを教えてくれます」との総括は、実に重みがあるといえよう。
(2008年、中央労働災害防止協会、900円+税)
本書の著者である久谷與四郎(くたに・よしろう)氏は、労働評論家で労働問題で幅広く評論活動を行っている。1960年に上智大学新聞学科卒業、読売新聞社会部記者として、長らく労働問題を担当してきた。論説委員。労務部長、総務局長などを経て、役員待遇・北海道支社長。退職後、2003年まで日本労働研究機構理事を務める。主な著書として『労働界見聞録』(1981年、東洋経済新報社)、『労働組合よ しっかりしろ』(2000年、日本リーダーズ協会)がある。本書では、新聞記者として労災事故に関わってきた著者が,過去の事故と災害から何を学んできたかを検証している。扱われる事案は、何れも大きな被害をもたらし、その後再発を防止するための対策が再三とられてきて,被害を食い止められてきているケースが多い。トンネル事故、火災、ガス爆発、硫化水素事故、化学物質災害、ケーソン事故、タービン破裂、鉄道事故等々。その後の関係者の人生や証言を元に,更に労働行政にどのように反映されたのかをレポートしている。以下は、本書目次の抄録。
第1章 トップの経営姿勢が招いた災害
大清水トンネル事故の火災、JCO臨界事故、熊本・大洋デパートの火災
第2章 イベントを意識してムリな工事
広島新交通システム工事の橋げた落下、大阪天六ガス爆発
第3章 "ささいな”引き金が招いた重大な結果
御徒町トンネル工事の噴発事故
第4章 化学物質災害の恐ろしさ
染料工場の膀胱ガン(ベンジジン中毒)、ぼすとん丸事件(4エチル鉛中毒)
第5章 安全衛生行政の礎に
足尾町民の「ヨロケ」撲滅の訴え、ヘップサンダル事件
第6章 技術進歩と災害
新四ツ木橋事故、丹那トンネル事故
第7章 社会や産業の変化の中で
ロボット殺人、白ろう病、三池炭坑の炭じん爆発
第8章 事故を風化させないための努力
タービンローターの破裂、国鉄三河事故、コンビナート爆発火災
30年くらい前までは、一度に数百人の単位で死者がでる事故が多発していた。それに比べると,最近は労災での死者数は少なくなっている。その減り方は,交通事故や労働以外の疾病に比べると顕著だ。多くの尊い人命の犠牲のもとに、その教訓がいかされてきたからである。犠牲が出た事故では慰霊碑が建てられることが多い。これは、再び事故を起こさせないという決意の表明である。憂慮すべきは、その教訓が風化しつつあること。団塊の世代のリタイアにより,悲惨な災害の伝承が絶たれようとしている。慰霊碑のなかには、河川の改修工事で埋められるという”信じられない仕打ち”に遭遇している実態もある。また、著者が指摘している「トップの経営姿勢が、これほどまで会社のモラルハザードを引き起こすものか、ということも実感しました。逆に言えば、トップの姿勢いかんで会社全体の安全度を格段に向上させることも可能だ、ということを教えてくれます」との総括は、実に重みがあるといえよう。
(2008年、中央労働災害防止協会、900円+税)