本書は日本居住福祉学会が発行を開始した「居住福祉ブックレット」シリーズの第1号として発行された。著者の早川和男氏は、1931年奈良市の生まれ。京都大学工学部建築学科卒業、日本住宅公団勤務の後、学界に入る。現在は長崎総合科学大学教授(神戸大学名誉教授)で、日本居住福祉学会会長の職にある。早川氏は、岩波新書のロングセラー『住宅貧乏物語』(1979年)、『居住福祉』(1997年)の著者。そのほか、住宅問題や居住福祉に関する多数の著書がある。“居住福祉“というコトバは、やや聞きなれないかもしれない。その意味するところは、「安全で安心できる住居は、人間生存の基盤であり、健康や福祉や社会の基礎であり、基本的人権である」というものである。
地域社会の中には、一見すると“福祉とは無関係”と思われる場所や施設がある。例えば、東京・巣鴨の「とげ抜き地蔵」(高台寺)と参道の商店街。ここは「おばあちゃんの原宿」とよばれ、高齢者の憩いの場、交流の場である。本書では、このような場所や施設を“居住福祉資源”と定義付けする。全国各地の“居住福祉資源”の概説書、案内書というのが本書の性格であり使命でもある。写真や図版を多用しているのも本書の特色。親しみやすく、読みやすい庶民的な本である。
東京・巣鴨にある「とげ抜き地蔵」に類似の場所としては、京都・西陣の「くぎぬき地蔵」、岡山県井原市にある「嫁いらず観音院」、大分県日田市の「高塚愛宕地蔵尊」等がある。
本書には次のような“居住福祉資源”も紹介されていた。京都市には、古い銭湯を改造してできたデイサービス施設「石川湯」や「泉涌寺湯」がある。これらの施設には、広々としたタイル張りの浴室や高い天井が、改造後もそのまま残されている。両者はともに懐かしいレトロな雰囲気を醸し出しており、高齢者たちに人気が高い。また、秋田県・JR鷹の巣駅近くには「げんきワールド」と称する施設がある。ここは元衣料品店を改装してできた市民のための談話室。散歩や買い物のついでに立ち寄り新聞を読む人、列車の待ち時間に使う人がいる。小、中、高校生が勉強する姿も見られる。この施設の特色のひとつは、車椅子用トイレが完備されていること。高齢者や身障者が自由に町を歩くためには、町内にトイレ網が完備される必要がある。トイレといえば、岡山県では306ヶ所ある交番のうち71ヶ所(2005年3月末現在)に、市民が自由に使用できる車椅子用トイレが設置されている。そのほか、無人駅の駅舎を改築してできた高齢者の憩いの場「ふれあいセンター」(鳥取県八橋駅)、岡山県笠岡市(同市には離島が多い)に誕生した日本初のデイサービス船「夢ウェル丸」の例も紹介されている。
本書に触発されて、全国各地に様々な“居住福祉資源”が形成されていく。本書は、そのような期待をもって世に出た。“居住福祉資源”の増強により、病気や介護とは無関係の元気な高齢者が増加していくことになろう。
(2006年、東信社、700円+税)
地域社会の中には、一見すると“福祉とは無関係”と思われる場所や施設がある。例えば、東京・巣鴨の「とげ抜き地蔵」(高台寺)と参道の商店街。ここは「おばあちゃんの原宿」とよばれ、高齢者の憩いの場、交流の場である。本書では、このような場所や施設を“居住福祉資源”と定義付けする。全国各地の“居住福祉資源”の概説書、案内書というのが本書の性格であり使命でもある。写真や図版を多用しているのも本書の特色。親しみやすく、読みやすい庶民的な本である。
東京・巣鴨にある「とげ抜き地蔵」に類似の場所としては、京都・西陣の「くぎぬき地蔵」、岡山県井原市にある「嫁いらず観音院」、大分県日田市の「高塚愛宕地蔵尊」等がある。
本書には次のような“居住福祉資源”も紹介されていた。京都市には、古い銭湯を改造してできたデイサービス施設「石川湯」や「泉涌寺湯」がある。これらの施設には、広々としたタイル張りの浴室や高い天井が、改造後もそのまま残されている。両者はともに懐かしいレトロな雰囲気を醸し出しており、高齢者たちに人気が高い。また、秋田県・JR鷹の巣駅近くには「げんきワールド」と称する施設がある。ここは元衣料品店を改装してできた市民のための談話室。散歩や買い物のついでに立ち寄り新聞を読む人、列車の待ち時間に使う人がいる。小、中、高校生が勉強する姿も見られる。この施設の特色のひとつは、車椅子用トイレが完備されていること。高齢者や身障者が自由に町を歩くためには、町内にトイレ網が完備される必要がある。トイレといえば、岡山県では306ヶ所ある交番のうち71ヶ所(2005年3月末現在)に、市民が自由に使用できる車椅子用トイレが設置されている。そのほか、無人駅の駅舎を改築してできた高齢者の憩いの場「ふれあいセンター」(鳥取県八橋駅)、岡山県笠岡市(同市には離島が多い)に誕生した日本初のデイサービス船「夢ウェル丸」の例も紹介されている。
本書に触発されて、全国各地に様々な“居住福祉資源”が形成されていく。本書は、そのような期待をもって世に出た。“居住福祉資源”の増強により、病気や介護とは無関係の元気な高齢者が増加していくことになろう。
(2006年、東信社、700円+税)