本山 美彦著『金融権力 グローバル経済とリスク・ビジネス』
本書の著者である本山 美彦(もとやま・よしひこ )氏は、1943年の生まれ。1969年に京都大学大学院経済学研究科博士課程を中退。その後甲南大学助教授を経て1977年に京都大学に戻り経済学部助教授に就任した。1986年には教授に就任、2000年から2002年迄、京都大学大学院経済学研究科長兼経済学部長を歴任する(2006年に定年退職)。専門は、世界経済論。経済学博士(京都大学、1984年)である。現在は、大阪産業大学経済学部教授(京都大学名誉教授)の職にある。『世界経済論』(同文舘出版, 1976年)、『貿易論序説』(有斐閣, 1982年)等が、著者の若き時代の著書。最近は『民営化される戦争 21世紀の民族紛争と企業』(ナカニシヤ出版, 2004年)、『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』(ビジネス社, 2006年)『格付け洗脳とアメリカ支配の終わり』(同、2008年)等やや過激なタイトルで問題意識が強く感じられる著作が目立っている。本書も、この系列の著作のひとつ。2007年以降世界を揺るがせ続けているサブプライムローン問題は、”カネこそが商品”という現在の投機的金融システムには危機と限界があることを、明らかにする。
本書の冒頭、プロローグの部分で、著者は鋭い口調で格付会社の化けの皮を剥がす。一見、権威あるかにみえる格付会社。しかし、アメリカ証券取引委員会(SEC)のお墨付きである認定格付会社は2007年11月現在で7社しか存在しない。格付会社は、事実上企業の生き死にを決定する権力を持ってしまった。1997年のアジア通貨危機以降、格付会社が欧米以外だけでなく、世界で広汎に活動を展開し始めた。格付会社だけでなく、米国の金融コンサルタント、米国の大手会計事務所、投資銀行、保険会社が日本はじめアジアに進出してきた。これらの各種金融機関等は”人脈”を通じて米国政府ともつながっている。「アメリカを頂点とする金融権力は、世界の経済体制を根底から変えてしまった」(7ページ)。これが本書のタイトルとなった”金融権力”というコトバの由来である。以下は目次。この目次を見れば、著者の問題意識やスタンスを理解できよう。本書の初版発行は2008年4月22日。以後、サブプライムローン関係の傷は深まっていくばかり。原油高、物価上昇、劣悪な雇用環境と一般市民の未来は暗くなる一方。格差社会は増々進み、その代償として(?)”自殺者の増加”や秋葉原、八王子と”奇怪な事件の発生”が続く。
第1章 サブプライムローン問題が示したものーー金融システムの危機ーー
第2章 金融の変質ーー「金融技術」の仕組み
第3章 リスク・テイキングの理論ーーシカゴ学派の論客たち-ー
第4章 新金融時代の設計者たちーーミルトン・フリードマンを中心にーー
第5章 リスク・ビジネスのはてにーー脆弱な金融ーー
第6章 金融権力に抗するためにーー新たな秩序への道筋ーー
主要参考文献/巻末資料
索引
第6章を少し補足しておこう。この章では、地域と向き合う銀行(バングラディシュのグラミン銀行、日本のNPO銀行)、イスラム金融、ラテンアメリカの「南の銀行」の事例が紹介されている。「カネこそが商品」という考えに基づく現在の投機的金融システムのカラクリを解明し、金融の進むべき方向を著者なりに提示した”熱い本”である。
(2008年、岩波新書、780円+税)
本書の著者である本山 美彦(もとやま・よしひこ )氏は、1943年の生まれ。1969年に京都大学大学院経済学研究科博士課程を中退。その後甲南大学助教授を経て1977年に京都大学に戻り経済学部助教授に就任した。1986年には教授に就任、2000年から2002年迄、京都大学大学院経済学研究科長兼経済学部長を歴任する(2006年に定年退職)。専門は、世界経済論。経済学博士(京都大学、1984年)である。現在は、大阪産業大学経済学部教授(京都大学名誉教授)の職にある。『世界経済論』(同文舘出版, 1976年)、『貿易論序説』(有斐閣, 1982年)等が、著者の若き時代の著書。最近は『民営化される戦争 21世紀の民族紛争と企業』(ナカニシヤ出版, 2004年)、『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』(ビジネス社, 2006年)『格付け洗脳とアメリカ支配の終わり』(同、2008年)等やや過激なタイトルで問題意識が強く感じられる著作が目立っている。本書も、この系列の著作のひとつ。2007年以降世界を揺るがせ続けているサブプライムローン問題は、”カネこそが商品”という現在の投機的金融システムには危機と限界があることを、明らかにする。
本書の冒頭、プロローグの部分で、著者は鋭い口調で格付会社の化けの皮を剥がす。一見、権威あるかにみえる格付会社。しかし、アメリカ証券取引委員会(SEC)のお墨付きである認定格付会社は2007年11月現在で7社しか存在しない。格付会社は、事実上企業の生き死にを決定する権力を持ってしまった。1997年のアジア通貨危機以降、格付会社が欧米以外だけでなく、世界で広汎に活動を展開し始めた。格付会社だけでなく、米国の金融コンサルタント、米国の大手会計事務所、投資銀行、保険会社が日本はじめアジアに進出してきた。これらの各種金融機関等は”人脈”を通じて米国政府ともつながっている。「アメリカを頂点とする金融権力は、世界の経済体制を根底から変えてしまった」(7ページ)。これが本書のタイトルとなった”金融権力”というコトバの由来である。以下は目次。この目次を見れば、著者の問題意識やスタンスを理解できよう。本書の初版発行は2008年4月22日。以後、サブプライムローン関係の傷は深まっていくばかり。原油高、物価上昇、劣悪な雇用環境と一般市民の未来は暗くなる一方。格差社会は増々進み、その代償として(?)”自殺者の増加”や秋葉原、八王子と”奇怪な事件の発生”が続く。
第1章 サブプライムローン問題が示したものーー金融システムの危機ーー
第2章 金融の変質ーー「金融技術」の仕組み
第3章 リスク・テイキングの理論ーーシカゴ学派の論客たち-ー
第4章 新金融時代の設計者たちーーミルトン・フリードマンを中心にーー
第5章 リスク・ビジネスのはてにーー脆弱な金融ーー
第6章 金融権力に抗するためにーー新たな秩序への道筋ーー
主要参考文献/巻末資料
索引
第6章を少し補足しておこう。この章では、地域と向き合う銀行(バングラディシュのグラミン銀行、日本のNPO銀行)、イスラム金融、ラテンアメリカの「南の銀行」の事例が紹介されている。「カネこそが商品」という考えに基づく現在の投機的金融システムのカラクリを解明し、金融の進むべき方向を著者なりに提示した”熱い本”である。
(2008年、岩波新書、780円+税)