本書の著者河村幹夫氏は、1935年(昭和10年)長崎市に生まれた。河村氏の経歴は異彩を放っている。一橋大学経済学部を卒業(1958年)後、三菱商事入社する。ニューヨーク、ロンドン等の海外勤務を経て、1990年同社取締役に就任した。1994年、多摩大学・同大学院教授に就任する(経営学博士)。2006年4月から多摩大学統合リスクマネジメント研究所長をつとめている。商社マン時代の豊かな国際経験などから「週末500時間の活用法」を提唱し、ビジネスマンの注目を集めた。その結果が三菱商事在職中から多数の著作をものし異色ビジネスマンとして広く世間に知られる存在となった。河村氏の著作は多方面にわたる。すなわち、商社マンとしての体験を踏まえた金属先物取引、ビジネスマンの生き方、シャーロック・ホームズ研究等である。『シャーロック・ホームズの履歴書』(講談社現代新書)は、日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した。同氏は、ロンドン・シャーロック・ホームズ協会員でもある。
本書は、同じ角川ONEテーマ21(新書)から出版された『五〇歳からの人生設計図の描き方』、『五〇歳からの定年準備』(著者は何れも河村氏)に続く第3冊目。冒頭に置かれた「まえがき」には、ショッキングなことが書かれている。知人の息子のマンション購入の相談を受け、結果的にヒューザーが開発販売した耐震強度偽装マンション購入事件(買ったのは知人の息子)に巻き込まれてしまったというのだ。本書の第1章では、この耐震強度偽装マンション関連事項にスペースを割き、自身の苦い体験を踏まえたリスクマネジメントの重要性を説く。
耐震強度偽装マンション事件は、“性善説”に基づいて運営されてきた日本社会の相互信頼性を根底から崩した象徴的なケースのひとつである。著者はそのようにコメントし、日本の現代社会は「信頼喪失社会」であると定義した。欧米では、「自分の身体と財産は自分で守る」ことは当たり前の鉄則。しかし、従来の相互信頼性に依存していた日本社会では、この鉄則に関しては甘かったということである。
所謂「定年もの」といった本はたくさん出ているが、本書の特色は次のように整理できよう。①リスクマネジメントという切り口
②自己の体験を踏まえたもので、抽象論や一般論、ましてや説教口調の本ではない
③ビジネスマン(本書ではビジネスパースンという用語を使用)の先輩として後輩に語りかけるというスタンス
本書は様々のタイプの“リスク”を俎上に乗せている。「50歳で失業するリスク」、「生活習慣病に罹患するリスク」等の項目もあった。もちろん、「巨大地震」に襲われるリスクに関する言及もある(第4章)。巨大地震対策については、本書の性格から個人または家庭ベースでの対策に重点を置いた叙述となっている。災害発生の際の円資産の暴落に備えて資産の一部を外貨やゴールドで持つことを勧める等、国際派ビジネスマンだった著者らしい忠告を行なったりもしている。この点はユニーク。
(2006年、角川ONEテーマ21新書、705円+税)
本書は、同じ角川ONEテーマ21(新書)から出版された『五〇歳からの人生設計図の描き方』、『五〇歳からの定年準備』(著者は何れも河村氏)に続く第3冊目。冒頭に置かれた「まえがき」には、ショッキングなことが書かれている。知人の息子のマンション購入の相談を受け、結果的にヒューザーが開発販売した耐震強度偽装マンション購入事件(買ったのは知人の息子)に巻き込まれてしまったというのだ。本書の第1章では、この耐震強度偽装マンション関連事項にスペースを割き、自身の苦い体験を踏まえたリスクマネジメントの重要性を説く。
耐震強度偽装マンション事件は、“性善説”に基づいて運営されてきた日本社会の相互信頼性を根底から崩した象徴的なケースのひとつである。著者はそのようにコメントし、日本の現代社会は「信頼喪失社会」であると定義した。欧米では、「自分の身体と財産は自分で守る」ことは当たり前の鉄則。しかし、従来の相互信頼性に依存していた日本社会では、この鉄則に関しては甘かったということである。
所謂「定年もの」といった本はたくさん出ているが、本書の特色は次のように整理できよう。①リスクマネジメントという切り口
②自己の体験を踏まえたもので、抽象論や一般論、ましてや説教口調の本ではない
③ビジネスマン(本書ではビジネスパースンという用語を使用)の先輩として後輩に語りかけるというスタンス
本書は様々のタイプの“リスク”を俎上に乗せている。「50歳で失業するリスク」、「生活習慣病に罹患するリスク」等の項目もあった。もちろん、「巨大地震」に襲われるリスクに関する言及もある(第4章)。巨大地震対策については、本書の性格から個人または家庭ベースでの対策に重点を置いた叙述となっている。災害発生の際の円資産の暴落に備えて資産の一部を外貨やゴールドで持つことを勧める等、国際派ビジネスマンだった著者らしい忠告を行なったりもしている。この点はユニーク。
(2006年、角川ONEテーマ21新書、705円+税)