原題:『August: Osage County』
監督:ジョン・ウェルズ
脚本:トレイシー・レッツ
撮影:アドリアノ・ゴールドマン
出演:メリル・ストリープ/ジュリア・ロバーツ/ユアン・マクレガー/クリス・クーパー
2013年/アメリカ
全く笑えないブラックコメディーについて
「Life is very long.(人生はとても長い)」というT.S.エリオットの言葉の引用から始まる本作は、最初夫のビバリー・ウェストンの意図が良く分からないのであるが、酒を浴びるように呑んでも妻のヴァイオレットの意地の悪さに耐えられなくなり、ネイティブアメリカンのジョナ・モンヴァータを雇い、ホテルで自殺したところをみると妻との同居は相当苦しかったのであろう。
ところでこの手の作品は、父親が自殺したとしても残された3人の娘たちが母親との関係の修復を試みて、大抵は成功するものであるが、本作は全く逆のメッセージをはらんでいる。最後まで残っていた長女のバーバラ・ウェストンも母親と口論の末に腹を立てて車に乗って帰ってしまう。途中でバーバラは車を停めて一旦車を降りて自宅がある方を見て、再び車に乗って帰ってしまうということはバーバラは一時的な感情に走ったのではなく、本当に母親を捨てたのである。つまり身内がそばにいて世話をするよりも赤の他人がそばにいた方が良い場合があるということなのである。
この時に効果的に使用されている楽曲がエリック・クラプトン(Eric Clapton)の「レイ・ダウン・サリー(Lay Down Sally)」である。以下その和訳。
「レイ・ダウン・サリー(Lay Down Sally)」Eric Clapton 日本語訳
俺と一緒にここにいて欲しいと思うことで
都合の悪いことなんか何も無い
お前にはどこか行く場所があることは分かっているが
くつろいで俺と一緒にいてくれないのか?
本当に出ていくのか?
サリー、一息つけよ
俺の腕の中で休んでいけよ
話し相手が欲しいと思わないのか?
サリー、一息つけよ
急いで出ていく必要はないだろう
俺はおまえと話すためだけに一晩中努力しているんだ
太陽はまだかろうじて昇ってはいない
俺たちの頭の上にはまだ月や星がある
ビロードのような空の下では
愛が全てなんだ
俺と一緒にいてくれないのか?
本当に出ていくのか?
俺は朝の光が見たい
夢のようにお前の顔を染める光を
だから別れを告げて出ていかないで
心配事は脇に置いて俺と一緒にいればいい
本当に出ていくのか?
「レイ・ダウン・サリー」は作品の冒頭とラストと2回流れる。歌詞の内容から判断するならば、ヴァイオレットの気持ちを表しているはずだが、家族の全員が去ってしまうのである。ようするに本作はブラックコメディーなのであるが、笑えるような演出にはなっていないと思う。
Eric Clapton - Lay Down Sally (Live)