原題:『Grace of Monaco』
監督:オリヴィエ・ダアン
脚本:アラッシュ・アメル
撮影:エリック・ゴーティエ
出演:ニコール・キッドマン/ティム・ロス/フランク・ランジェラ/パーカー・ポージー
2014年/フランス・アメリカ・イタリア・ベルギー
「モナコの美質」について
本作は主人公のグレース・ケリーの撮影シーンから始まる。ブルーバックを利用して車が走るシーンが彼女のどの作品のものなのか定かではない。ここだけ観るならばその後モナコ公妃となった女優の前日譚として描かれた程度の些末なものでしかないが、何故かこのシーンはラストで、同じ場所でグレースが椅子に座ってこちらを見ている短いシーンとしてもう一度現れるのである。
これではまるで、その間に挟まれているメインストーリーがグレースの見ていた夢のように見えてしまう。そのような演出に文句を言うつもりはないのであるが、どこまで史実に忠実なのか曖昧な本作の言い訳として機能してしまうきらいがある。グレース・ケリーは1956年4月に結婚しているのであるが、5年経ってようやく「モナコの歴史、王室の仕組み、完璧なフランス語、公妃の作法、正しいスピーチ」を学び始めるという状況がどうしても理解しにくい。いくらハリウッド女優だったとはいえそんなに甘やかされることも、グレース本人さえ自分を甘やかすこともないと思うし、寧ろ「女優」だったからこそ本作で描かれているように公妃として必要なことは早々に全て学んでいたはずなのだから、例えフィクションであったとしても説得力が感じられないのである。