「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

上杉謙信③「もののふの鎧の袖を片しきて枕に近き初雁の声」

2020-09-15 11:39:13 | 【連載】続『永遠の武士道』
続『永遠の武士道』」第十七回(令和2年9月15日)

上杉謙信に学ぶ③
もののふの鎧(よろい)の袖(そで)を片(かた)しきて枕に近き初雁(はつかり)の声                           (『北越耆談』)

 上杉謙信が神社等に奉納祈願した「願文」が現在十八通が残っており、その中に「文武者帷(惟)車輪存不欠両輪」と記し、文武は車輪の両輪と同じであると述べている(花ヶ前盛明『新編上杉謙信のすべて』)。謙信は天文二十二(1533)と永禄二年(1559)の二度上洛し、都で多くの文化人と交流し、歌集の収集に努め、歌道の秘訣を学んだりしている。天正五年(1577)には細川幽斎から和歌の口伝一巻を贈られている。『北越軍記』には「一代に詩歌尤も多し。陣中にての作多し。剛将なれども風雅なる人」とある。

 ここで紹介している和歌は、天正五年、謙信四十八歳の時、越前方面に遠征する途次、越中の魚津城で詠んだ歌とされている。「袖を片しく」とは、二つある袖の片方だけを敷く、との意味であり、戦場での独り寝を表している。「初雁」は秋になって初めて北方から渡って来た雁の事。秋の夜長に中々寝付けない様を和歌に上手く表現している謙信の代表作である。

 その後九月(旧暦)には越前細呂木(ほそろぎ)で野営したおりに次の和歌を詠んでいる。

  野伏(のぶし)する鎧の袖も楯の端(は)もみな白妙(しろたえ)の今朝の初雪

野営地に初雪が舞い来る様子を「鎧」や「楯」という武具を題材に上手く詠んでいる。

 風雅な歌も残されている。

     雲 雀
  なれもまた草のまくらやゆふひばりすそ野の原におちてなくなり(上杉神社所蔵)

     祈 恋
  つらかりし人こそあらめ祈るとて神にもつくすわがこころかな(同)

     辞 世
  極楽も地獄もさきは有明の月の心にかかる雲なし(「謙信家記」)

 更に謙信は連歌や漢詩も詠んでいる。能登七尾城で詠まれたという次の一首も素晴らしい。

  霜満陣営秋気清 数行過雁月三更 越山併得能州景 任他家郷憶遠征(七絶・八庚韻)

「霜は陣営に満ちて、秋気清し。数行の過雁、月三更。越山あわせ得たり能州の景。さもあらばあれ家郷の遠征を憶ふは。」

家郷を遠く離れた戦陣での覚悟を見事に歌い上げている。和歌や漢詩にはその人の人格が自ずと表わされる。謙信の清らかな風雅の精神が、謙信の詩歌から伝わって来る。

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