「永遠の武士道」研究所所長 多久善郎ブログ

著書『先哲に学ぶ行動哲学』『永遠の武士道』『維新のこころ』並びに武士道、陽明学、明治維新史、人物論及び最近の論策を紹介。

武田信玄⑤「人生ながら麁相なるものなし、唯心の動静によるものなり、動ものハ危、静なる時はハ安し」

2020-08-18 11:23:49 | 【連載】続『永遠の武士道』
「続『永遠の武士道』」第十三回(令和2年8月18日)

人生ながら麁相(そそう)なるものなし、唯心の動静によるものなり、動ものハ危、静なる時はハ安し                    
                        (『武田家百目録』)

 甲府市の武田神社で頒布されている本に『武田家百目録』というのがある。その内容は、武田信玄が山本勘助に、若い武将達の為に「修身斉家」の道理を解り易く心得させる為の教書を箇条書きにして与える様に命じ、自らも加筆訂正して出来上がったものである。それ故、日常生活で実践すべき様々な訓えが記されてある。

 最後の百項に記してあるのが、「人には生まれながら軽率な者などは居ない、ただ、心の動静によって麁相な振る舞いが生み出されるのである。心が動揺している時は危機が生じる、心が静かで落ち着いている時は安全である。」という言葉である。信玄や勘助は、心を落ち着かせる事を重視した。その為に臍下丹田に気を納める事の大切さを幾度も説いている。

 第一項で、「朝目覚める時に、むくっと起きる事はとても良くない。先ず仰向けに寝返って、両足をふみ揃えて、両手の指をからめてゆっくりと胸から臍の下まで三回なでおろし、その後、臍の下から三寸(約九㌢)下の丹田をしっかり押さえてからゆっくり起き上がるべきである。このようにすれば、その日どんな異変に出会っても慌てふためく事は無い、毎朝の習慣とすべきである。」と記す。更に九項で「外出時、どんな急用でも慌て急いで出掛けてはいけない。支度を終え坐って湯茶をのむ内に胸から下へなでおろして呼吸を整え、この日の用事を整理して確認した後、踏み出す最初の左右左の三足は能の所作の様にゆっくりとし、その後は駆け走っても構わない。」と「静」の延長上に「動」を生ずべき事を記している。

 九十八項では「主君から呼び出された時でも、直ぐに出向いてはならない。まずは、次の間に控えて胸から臍の下に二三度撫でおろして後、心静かに出向く様にせよ。主君から思いもかけないお尋ねがあった場合、狼狽して返答が遅れる事を防ぐ事が出来る。」と注意している。更に、二十九項では「どんなに疲れていても直ぐに寝てはならない。朝の様に胸から臍の下へゆるゆると撫で下げて陽気を丹田に納めて寝入るべきである。そうすれば、夜中に如何なる異変が起こっても慌てる事は無い。」と。更に八十一項では、「寝床に入ってから、胸に『勝』、腹に『丞』、臍に『叶』と、指で三つの文字を書く様にせよ」と教えている。

 私もこの本で学んでからは、起床時と就寝時には、この臍下丹田に気を納める行法を行う様にしている。武道でも、力では無く、臍下丹田で相手を斬る様に指導される。中々難しい事だが、信玄の胆力に少しでも習いたいと思っている。

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