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「家なき娘」エクトール・マロ

2023年08月30日 06時01分47秒 | 読書(小説/海外)

「家なき娘」エクトール・マロ

「家なき娘」再読。(前回読んだのは2019年4月)
本書はフラマリオン社版挿絵入り大型本による全訳。
挿絵も初版H・ラノスのもの。
訳者によると、原書はには章タイトルがなく、数字だけが記されている、とのこと。訳者・二宮フサさんが編集部と相談してつけたそうだ。

エクトール・マロと言えば、日本では「家なき子」(1878年)が有名。
その15年後に上梓されたのが、「家なき娘」(1893年)。

「家なき子」原題:Sans famille=家族なし、家族がいない
「家なき娘」原題:En famille=家族で、家族のように、家族と共に

「家なき娘」は「家なき子」のだいぶ後に出版されたが、
タイトルから対になる作品だと分かる。

物語後半の舞台となるのは、架空の村マロクール。
モデルは、ニエーヴル川流域の中心部にあるフリクスクール。
訳者あとがきにも、
フリクスクール=マロクール
サン・フレール会社=ヴュルフラン・パンダヴォワーヌ会社、
の図式を連想させずにおかない、とある。

ヒロイン・ペリーヌは、エクトル・マロの孫娘の名前と同じ。
「家なき娘」刊行直後の1893年10月4日に生まれた、とある。P302

日本では「家なき子」が有名と書いたが、
1978年1月1日から12月31日、「ペリーヌ物語」と改題され放送された。
日本アニメーション制作、「世界名作劇場」の第4作、全53話。
これにより「家なき娘」も有名になった。


Wikipediaによると、次のように書かれている。
それまで1年おきに世界名作劇場を手がけ、本作品でも監督として参加が予定されていた高畑勲が、本作品のタイトル決定後、原作に否定的な立場を見せて監督を拒否したため、急遽『あらいぐまラスカル』を制作中だった斎藤博に監督を依頼することになり、さらに高畑の監督拒否にともなって当初参加を見込んでいた小田部羊一、宮崎駿らも不参加となったため、残った美術監督の井岡雅宏を除いてスタッフの座組みを一から作り直すことになるトラブルがあった。

ヴュルフラン氏がブルジョアで、そこに身を寄せるペリーヌという構図が気に入らなかったのかもしれない。
高畑勲は宮崎駿と仲がよかった。
宮崎駿は、数千人の従業員を擁した一族が経営する宮崎航空興学の役員を務めるブルジョア。大学も学習院卒。
それは、OKなようだ。

以下、「家なき娘」と「ペリーヌ物語」の違いを思いつくまま書いておく。
アニメでは、ペリーヌの母はインド人と英国人のハーフとなっているが、本書では、インド人と書かれている。
だから、ペリーヌは、「ブロンドの髪に琥珀色の肌」
「切れ長でりこうそうでまじめな黒い目が印象的」とある。
「一目ではっきりとわかる混血なのに、すこしも気にならない」。以上P12


アニメはボスニアでの父の葬儀から始まる。
その後、ボスニア→クロアチア→イタリア→スイス→フランスと移動する。

現代なら、クロアチアからイタリア・トリエステに行くには、スロベニアを通らねばならない。でも、スロベニアは登場しない。まだ誕生していないから。

アニメ第4話・クロアチア編で、ペリーヌはオーストリア兵士に取り囲まれる。これは当時クロアチアがオーストリアに支配されていたから。クロアチア独立抵抗運動の貴族も登場している。後に、ユーゴスラビアとなり、再び分裂。
(このあたりの事情を描いた作品に「石の花 」(全5巻)があり、米原万里さんも絶讃されていた。私も読んだが複雑な民族紛争を理解する困難を感じた)

原作はパリに入るところから始まる。
クロアチア独立抵抗運動は描かれていない。
スイス山越えもない。

原作では、ヴュルフランの甥としてテオドールとカジミールの2人登場するが、アニメではテオドールのみ。
アニメではロザリーとランソワーズお祖母様が活躍するが、原作ではあまり活躍しない。ロザリーも両親がいない設定だが、アニメでは父がいる。
食堂も経営していない。

アニメでは犬のバロンが大活躍。
でも、原作では登場しない。(バロン=男爵の意味)
ロバのパリカールは登場する。

ヴュルフラン氏は目の手術をする。
アニメには病名が出ないが、原作では白内障とある。
白内障は水晶体が濁る病気、緑内障は眼圧の病気。

原作ではフィリップ弁護士は登場しない。
逆に、家庭教師のベローム先生は、アニメに登場しない。

ベローム先生の、ペリーヌへのアドバイス
p179
「できるだけ口をきかないようになさい。問いつめられて、どうしてもこたえなければならなくなったときも、とりとめのないことか、漠然としたことしかいわないように。人生には、光るよりもくすんだほうがよく、賢すぎる女の子と思われるよりも、すこしおばかさんだと思われるほうがよいことが、よくあるものです。あなたの場合がそれです。だからあなたは、賢くみえなければみえないほど、いっそう賢いわけですよ。」
 
挿絵がすばらしい・・・初版のH・ラノス

小説では、ペリーヌ11歳から12歳、アニメでは13歳くらいの設定。
それでも、ペリーヌがワインを飲むシーンがある。
フランスでの実情に即した情景だが、子ども向けアニメとして大丈夫なのか、心配になった。放送当時はOKでも、今ならコンプライアンスの絡みでまずいかも。
 
【ネット上の紹介】
フランス人を父に、インド人を母に持つ少女ペリーヌ。インドからやっとの思いで、フランスにたどりついたとき、すでに父は亡く、母もパリで力尽きてしまう。一人ぼっちになったペリーヌは、父の話をたよりに、母の教えを胸に、父の故郷マロクールにむかう。はたして、祖父はペリーヌをむかえいれてくれるだろうか。ペリーヌの父は、結婚が原因で勘当されていた…。「家なき子」で有名な十九世紀フランスの文学者エクトール・マロの傑作。聡明な少女が困難をのりこえ、幸せを得るまでの物語。小学上級以上向。
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