【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「ユーミンの罪」酒井順子

2022年07月29日 06時59分43秒 | 読書(エッセイ&コラム)


「ユーミンの罪」酒井順子

本書は「小説現代」2012年1月号~2013年8月号に蓮された。
当時のタイトルは「文学としてのユーミン」

P27
ユーミンの歌における泣かない女は、ダサいから泣かないのです。(演歌の泣かない女は「本当は泣きたいのに、意地とか根性、自己犠牲の精神で涙をこらえて、むしろ笑ってみせるような女」)

結婚して「松任谷」となる
P55
もしも平凡な名字やダサい名字であったら、ユーミンという歌手の行く末は違うものになっていたのではないか。

「冷たい雨」について
P75
中島みゆきが歌ったならば、どれだけ声をふるわせてその怒りと絶望を表現するだろうかというこの歌詞からも、ユーミンは見事に湿度を除去してみせるのでした。(中略)
ユーミンが、当時の女性達にとって恋愛のカリスマ的存在になったのは、誰もが知っている暗い感情を、お洒落に、すなわちポップに歌い上げたからなのだと思います。

P131
ユーミンは、「嫉妬って、するよね」とは歌っていますが、「嫉妬って、苦しいよね」とは歌っていません。女性達が、
「そうそう」
と軽くうなずくことができたのは、その苦いけれど苦すぎないという、味付けのせい。

松田聖子について
P153
人工感こそが、「異性に好かれる」ことを目的とした「ふり」だったから、彼女は「ぶりっ子」と呼ばれたわけです。
対してユーミンは、声の低さも、センスの良さも、容姿も、自然なものに見えました。

P176
「シンデレラ・ストーリー」というと、現状打破のための行動を自分から起こしはしないけれど、持って生まれた美点を他者が発見してくれることよって、身の丈以上の幸せを得る」という女性の生きざまを指すこととなったのでした。

P188
湿り気たっぷりの情感から上手に湿度を抜いて、万人が食べやすく、そして一度食べると癖になるような、カリッとした歯ごたえを出す。その行為、および行為の結果として生まれた作品を「ポップ」と言うのだと思いますが(後略)

P215
この年(1988年)、CDがLPの生産枚数の2倍を超えた。(80年代前半は、レコード店に行っても、普通にLPが置いてあった。今、レコードはマニアの世界。レコード針を作っていたナガオカは、今でも世界ナンバーワンとして、生き残っている。凄いことだ)

P216
昔の日本人は「誕生日を祝う」などという行為を、しなかったらしいのです。それというのも昔の日本では、全員がお正月に一斉に一つ年をとるという、「数え」の年齢を採用していたから。それぞれの誕生日を祝うという発想が、無かったのでしょう。(誕生日は、お祝いしなかったかもしれない。でも、「祥月命日」という考え方はあった。だから、記念日にイベントする、って風習を日本人はもともと持っていた。それが戦後、コマーシャリズムと結びついていった、と思う)

P217
日本古来のイベントは、あまり恋人向けではないのです。冬至だから南瓜を煮て柚子湯に入るとか、お彼岸だから墓参りへ、というのは皆、家族単位を前提とした行事であり、ロマンティックとは言いがたい。

P265
90年代前半は、すなわち一般人がIT機器に目覚めてゆく時代であったわけです。そして我々は、IT機器が今後、自分達の生活をどれほど変えてゆくか、まだわかっていなかった。(ポケベルだけでもびっくりの「革命」と思ったけど、その後、誰もが電話を「携帯」するようになり、画面はカラーになり、カメラ機能が付き、音楽が聴け、ネットと繋がり、現代のスマホに近づいていく・・・私はついて行けない)

【感想】
「なるほどそうか!」の連続。
すっきりした。
もやもや感を言葉で説明するテクニックはさすが。

ユーミンの曲は好きなので、読んでみたんだけど、でもどちらかというと、酒井順子さんが書いてるから、って理由のほうが大きい。
どんな風に書いて、料理してるのかな、と。

【ネット上の紹介】
ユーミンの歌とは女の業の肯定である。ユーミンとともに駆け抜けた1973年~バブル崩壊。ユーミンが私達に遺した「甘い傷痕」とは?キラキラと輝いたあの時代、世の中に与えた影響を検証する。
開けられたパンドラの箱―「ひこうき雲」(一九七三年)
ダサいから泣かない―「MISSLIM」(一九七四年)
近過去への郷愁―「COBALT HOUR」(一九七五年)
女性の自立と助手席と―「14番目の月」(一九七六年)
恋愛と自己愛のあいだ―「流線形’80」(一九七八年)
除湿機能とポップ―「OLIVE」(一九七九年)
外は革新、中は保守―「悲しいほどお天気」(一九七九年)
“つれてって文化”隆盛へ―「SURF&SNOW」(一九八〇年)
祭の終わり―「昨晩お会いしましょう」(一九八一年)
ブスと嫉妬の調理法―「PEARL PIERCE」(一九八二年)
時を超越したい―「REINCARNATION」(一九八三年)
女に好かれる女―「VOYAGE」(一九八三年)
恋愛格差と上から目線―「NO SIDE」(一九八四年)
負け犬の源流―「DA・DI・DA」(一九八五年)
一九八〇年代の“軽み”―「ALARM ´a la mode」(一九八六年)
結婚という最終目的―「ダイアモンドダストが消えぬまに」(一九八七年)
恋愛のゲーム化―「Delight Slight Light KISS」(一九八八年)
欲しいものは奪い取れ―「LOVE WARS」(一九八九年)
永遠と刹那、聖と俗―「天国のドア」(一九九〇年)
終わりと始まり―「DAWN PURPLE」(一九九一年)

この記事についてブログを書く
« 4泊5日西穂から槍縦走、会計報告 | トップ | YAMAP記事 »

読書(エッセイ&コラム)」カテゴリの最新記事