今まで見たことがある貨車の中でも、運用が不明だったものの一つにタキ42250形ナフタリン専用車があります。とは言っても運用を外れて神栖で休車留置中の42254を一線空きの苦しいアングルで撮ったのみですが…
そこで、つい最近こんなのをxで見付けました。酒田港の日立セメントのスイッチャーも貴重なんですが、花王専用線に出入りするタンク車の中にその加熱管が特徴的なタキ42250形(タキ1500形改造の42250-53のどれか)が2輌も写っているではありませんか! 発送元は新日鐵化学(西八幡)と思われますが、花王でナフタリン(ナフタレン)って何に使うのか?ですが、同社は一般的に日用品、化粧品で有名なので、衣料用防虫剤?と思いがちですが(この用途も約40年前に無臭で低毒性のピレスロイド系防虫剤が登場して以来、市場からほぼ駆逐されて独特の匂いを嗅ぐ機会も無くなり久しいですが)、一方で花王は各種界面活性剤、合成樹脂の可塑剤、コンクリート添加剤など産業用の化学品も古くから製造しています。花王以外のブランドの化粧品、トイレタリー製品、食品、医薬品等にも多くに花王の界面活性剤、油脂、香料等が入っている筈で、多分花王製品を全く使わずして日常生活を送るのは不可能と言って良いと思います。
ここで本題、タイトルカットが何でタキ42250じゃなくてタキ5950?なんですが、5950,51は最初は花王石鹸の所有で、JOTに移籍後も最後まで実ユーザーは花王でした。同社の主要生産品目でナフタレンに関連がありそうなのは2つありますが、そのうち一つがこの塩ビ用可塑剤として使われたフタル酸エステルです。
四角で囲んだ式の様に、フタル酸エステルの前駆体となる無水フタル酸は、ナフタレンを酸化して(あるいはオルトキシレンを酸化して)造られます。これにアセトアルデヒドから造られる2-エチルヘキサノールを縮合してフタル酸ジ(2-エチル)へキシル(DEHP)にします。ここでややこしいのは赤で示したところ、私有貨車の専用種別名では(1)はオクタノール、(2)はフタル酸ジオクチルと慣例的に標記することで、下図(A)n-オクタノール、(B)フタル酸ジ(n-オクチル)では無いことには注意が必要です(本来はこちらを指すのが正しいと言えるのですが)。式の途中にもクロトンアルデヒドとかブチルアルデヒドとか私有貨車の積み荷としてもお馴染みの物質が登場しますね。
そのタキ5950形、末期は(花王和歌山工場→)浪速→越中島貨物間で運用されていました。形態はタキ2100形から加熱管を省略したようなものですが、3輌とも少しずつ違うのが面白いですね。
(1994年1月2日 浪速駅)