SMILEY SMILE

たましいを、
下げないように…

くじら、ねこ  5

2004-08-08 16:03:40 | くじらねこ
しばらく、くじらさんはお一人で黙って例のドイツワインを三本、お空

けになりました。ゆっくりと味わって、つぶれているねこさんにお手本

を見せるように召しあがっておりました。とは言ってもものの17分42秒

で飲み干してしまうような量で御座います。くじらさんの特製ワイング

ラスはボトル一本が丁度はいるようになっておりまして、しかもギリギ

リ、表面張力で無理やり注いで一杯。日本酒ではないのですからとて

もお行儀が悪いことのように映りますが、くじらさんは、これに注ぐこ

とに無上のスリルを感じるようで、少ないと、ちっ、といまいましげに

舌打ちをし、多くて、あと数滴のところで溢れてしまったりしても、や

はり舌打ちですが、そのお顔は恍惚、といってもいいような表情をお浮

かべになるのです。

それから、ワインの、その輝きを3分半、長いときは4分を超えるほど、

じっとお眺めになります。ドイツワインは白といってもクラスの高いも

のほど黄金色になってゆきますので、その高貴とも言える色彩を印象

派を見るような目でご覧になるのが常でございます。照れ屋で見栄坊

なくじらさんは、他に知らないお客様がいらっしゃるときは決してなさ

いませんが、今のような時間で、いい気分にお酔いになるとこのような

ことをなさるのです。

お酒を注ぐこと、その色彩を愛でること、そしてそれをこころゆくまで

堪能すること。お酒を飲むというのはこういうことだよ、とまさにここ

において実践なさっているくじらさんでありますが、ねこさんは相変わ

らず、異界にて浮遊する悦びでご満悦の様子。

ひつじさんは「Days of Wine and Roses」をスローに、やがて軽快

に、そしてまだ艶っぽく、テンポを自在に操って、絶妙の演奏をいたし

ました。


「わたしも、あまりお酒はあまりいける口ではないのですが、酔うとい

うのは、今、演ったように一杯目のとろりとした気分から、やがて快活

になってゆき、そして心地よい疲れのような倦怠にたどり着く、そんな

感じでせうね」

普段は寡黙なひつじさんが、くじらさんをうれしがらせることを仰るの

で、くじらさんはまた、うれしはずかし、お話をおはじめになりまし

た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・。



突然、音もなく、ミルクが溢れてまいりまして、私たちは、・・・・。






ミルクの海






しろく、白く、呑み込んで、沈んで、暗転。


                            (続)

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