SMILEY SMILE

たましいを、
下げないように…

「くじらねこ」をあなたに捧げる 

2004-11-02 04:01:40 | くじらねこ
たまには、ひとりで珈琲を、と思って、あの店に入った。

随分ご無沙汰してしまった。

マスターと目が合って、

「や、どうも」

なんて、しどろもどろの挨拶、マスターはニヤリと笑った。

カウンターの奥では、くじらさんが、珍しく珈琲を啜っていた。

「あ、くじらさん、くじらさん、お元気で?

 先月は忙しかったんじゃないんですか?」

「ああ、たけさん、忙しいからね、ここに来てしまうのですよ。

 私は、先月、フィリピンの方に行ってましてね。」

「そうですか、天気予報を見るたびに、『くじらさん、大変だろなあ』て

 思ってましたよ。」

くじらさんは、うふふと笑いながら、持っていたコペンのハイハンドルを

見つめている。

マスターが、やや低めの温度でマンデリンを淹れてくれた。

ゆっくりと、ゆっくりと、香りが広がる。

ひつじさんはお休みのようで、エヴァンスの

「Medley:Spartacus Love Theme / Nardis」が流れていた。

ひとくち。

濃厚で、とろりとした液体が流れ込む。

ふたくち。

芳醇な香りと心地よい苦味が、やさしく味覚を揺り起こしてくれる。

舌にばかり集中していたら、メドレーはいつのまにか「Nardis」に

変わっていた。

ひとつの感覚にココロを集めず、放心したように、「今ここ」に

身を任せていたら、ふっと、身が軽くなったような気がした。

「・・・ねえねえ、たけさん。」

「ぁっ、は、はいっ?!」

くじらさんに呼び戻された。

「明日は、晴れるよ」

「?」

「あの公園で、蒼い空を眺めたいでしょう?」

「あ、ああ、そうですね。そうです。眺めたいですね、ハイ。」

「うん、明日は、晴れだ。」

「ええ、明日は、晴れ、ですね。」





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