逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

「風評被害」として5年間封じ込めに成功していた「放射能被害」

2016年03月21日 | 政治
福島第一原発の構内の地上30メートルから40メートル付近だけに発生している不思議な濃い霧を1500メートル離れた海上から撮影(週プレNEWS 2015年10月25日)

『今週の本棚・この3冊 』

「今の世界を見るヒント」 堤未 果・選 毎日新聞2016年3月20日 

 <1>世論 上・下(ウォルター・リップマン著、掛川トミ子訳/岩波文庫/778円・907円)
 <2>白バラは散らず(インゲ・ショル著、内垣啓一訳/未來社/1296円)
 <3>村で病気とたたかう(若月俊一著/岩波新書/821円)

今夏から始まる18歳選挙にむけて、高校生やその親たちから沢山(たくさん)の問いが寄せられる。「正しい選択をする為(ため)に、何をおさえておくべきか?」。膨大な情報が手に入る今、試されるのは知識より取捨選択だ。ニュースと真実の違いを見抜く重要性を教えてくれる、リップマンの名著『世論』は必読だろう。
私たちが自由意思だと信じているものは、多くの場合、マスコミを通じ意図的に作られている。効果的な大衆操作が90年たっても色褪(あ)せていない事がわかるだろう。
自分の中の<ステレオタイプ>を常に意識し、壊し続けてゆくという彼の教えは、今の日本でこの罠(わな)に陥らないためにとても有効だ。

歴史をみればわかるように、古今東西為政者たちは、「国」と「国家」を巧みに混同させてきた。権力に迎合した新聞が沈黙するナチス政権下で、傍観する事を拒み、祖国のために声をあげた学生ゾフィー・ショルは、その事を誰よりもよく知っていた。『白バラは散らず』にはこんな一節が出てくる。「いったいいつ国家は、その最高の務めがただ何百万人という無名の人たちのわずかな幸福にあることを、みとめるであろう?」。
彼女が愛した「国」とはすなわちドイツ国民であり、彼らの日々の営みや文化、伝統、全てを含む共同体であり、それを運営する執行機関に過ぎない「国家(ナチス第三帝国)」では決してなかった。長い時を経てもなお生き続けるこの真実は、私たちに気づかせる。
英雄とは、必ずしも革命や戦場の真中にいるとは限らない。道の片隅に咲く名もなき花のように目立たずとも、自らの信念を曲げず良心に沿って行動し続けた者も又(また)、その名にふさわしいのだと。

英雄は、ここ日本にも存在する。地域医療の父と呼ばれた医師『村で病気とたたかう』の若月俊一氏だ。病気ではなく人間を診る、を指針とした若月氏は言う。「たとえ同じようにみえても、一人として同じ人はいないのです」。この言葉はジャーナリズムや教育をはじめ、私たちが生きる社会の中の、あらゆる場面にあてはまる。「民主主義」とはいつの時代も、「人間」から始まるものなのだ。
加速する強欲資本主義の中、私たちは「真実」をつかもうと手をのばす。頼れるものは迷った時に、「本質」に戻る「想像力」と「他者への優しさ」、そして「直感」だろう。どれだけ技術が進み情報が降り注いだとしても、本当に価値あるものは、ずっと変わらないのだから。
2016年3月20日毎日新聞

『なんともピッタリな[三題噺] 』(今の世界を見るヒント この3冊)

1冊目は1世紀も前のアメリカ人ジャーナリストが書いた、マスコミを使った世論誘導を告発したというか『民主主義』がもつ根本的弱点を書いた本で、2冊目が反ナチ運動の地下活動が発覚して処刑された『ドイツの良心』を象徴するショル兄妹の『白バラ』。3冊目は地域医療なのですから丸っきり落語の三題噺である。(毎日新聞の『この三冊』の挿絵として使われているのは女子高生が投票しているイラスト)
普通に考えれば、今回堤 未果が選んだ『この三冊』には何の関連性もない。
フクシマの核事故では、いみじくも民主党政権の枝枝野幸男が何回も繰り返したように、普通の毒物とは違いDNAを傷つける放射線は『すぐには健康に影響しない』。ところが一定の時間が経てば確実に影響が出てくる。
今の日本国ですが、現実に起きているフクシマの深刻な『放射能被害』を、挙国一致でマスコミの全員が『風評被害だ』と言い替えて5年間も世間を誤魔化し続けていた。社会(日本の一般市民層)も明らかなその嘘を受け入れて『風評被害だ』と自分自身を騙していた。
国家が国民を騙していたプロパガンダではなくて、権力と普通の市民たちとの『馴れ合い』によるに二人三脚の共同作業(隠蔽工作)なのですから罪が深い。
残されていた貴重な時間をアベノミクスの株高に浮かれている間にすっかり使い果たし、とうとうわずかな『猶予期間』が終わってしまった。
日本そのものに残された時間がないのだっ!。
今回堤 未果が選んだ『この三冊』ですが、フクシマも放射能も小児甲状腺がんの文字が無いだけではなく、政府がマスコミを総動員して行った漫画『美味しんぼ』の鼻血バッシングの狂気も取り上げていない。ところが、時期が原子炉4基が同時に暴走したフクシマの2011年3月11日の未曾有の核事故から5年が経過したトンデモナイ節目だった。
挙国一致の大本営発表で目の前で起きているフクシマの深刻すぎる『放射能被害』を、日本人は『風評被害だ』と言い替えて、全員で忘れようとしたのである。
全員で『風評被害だ』と決定しても、客観的な科学的事実には何の影響もない。
いくら全員で日本人の最終兵器である『先送り』と『美辞麗句』(言葉の言い替え)や『忘却力』を駆使して、『無かったころにする』と決めても今回は相手が悪く、フクシマの放射能にはまったく効き目が無かったのである。
『風評被害』として5年間だけ封じ込めに成功していたフクシマの禍々しい『放射能被害』が、とうとう『時間切れ』である。
政府による言論統制(政府の意向を忖度したメディア側の自主規制)の封印が解けたあと、『満を持して』本格的に暴れだしたら、もう誰にも止められないでしょう。

『今の世界を見るヒント、とは「何」を指しているのか』 

『今の世界を見るヒント』として、なぜか唐突に2016年7月10日の参議院選挙から日本にも導入されることが決まった18歳選挙権を取り上げている。記事の挿絵も投票する女子高生(18歳投票権)なのだが、肝心の記事の中身では18歳投票権には全く触れていない。
取って付けたような、何とも不思議な印象の『18歳投票権』ですが、これを『今の世界を見るヒント』として見れば、近代民主主義の隠れた根幹部分(暗くて深い闇)を示唆しているのだろう。今の世界各国では18歳投票権が主流で、今までの日本のような20歳投票権の方が珍しい。
今の平和な日本では考えられない話なのだが、実は近代国民国家(民主主義)の普通投票権と国民皆兵(徴兵制)とはコインの裏表のように密接な関係があった。世界最初の近代国民国家のフランス革命(1789年)でも日本の明治維新でも同じで、国民の政治参加(投票権)と徴兵の義務は、恐ろしいことに常に一体だったのである。(半世紀前の当時のアメリカの投票権は21歳からだった徴兵の方は18歳だったので若者たちのベトナム戦争への反戦運動が盛り上がった)
それでは、『今の世界を見るヒント』が、『何を指しているか』というと具体的には、『知識より取捨選択』、『ニュースと真実の違いを見抜く』(物事の正誤や善悪よりも、何が大事で何がそれほど大事ではないかの、全てのものごとの優先順位)であると喝破する。
今のような民主主義社会では、『私たちが自由意思だと信じているものは、多くの場合、マスコミを通じ意図的に作られている』のである。
それでは権力と一体となったマスコミに踊らされない(世論誘導の罠に嵌りこまない)メディアリテラシーは、どうして獲得すれば良いのか。
困ったことに簡単な近道などは何処にもなくて、『迷った時に、「本質」に戻る「想像力」と「他者への優しさ」、そして「直感」』で、『自分の中の<ステレオタイプ>を常に意識し、壊し続けてゆく』たゆまぬ努力しかないのである。

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3 コメント

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疑うこと (ちくわ)
2016-03-21 18:23:23
身の回りに溢れる情報、そのすべてに疑問を持ち疑い続ける。しかしそれだけでは足りない。もっとも重要な、正誤を判断している自分自身の価値基準を常に疑い続けなければならないのですね。
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福島食材 (あたし新聞)
2016-03-21 22:16:24
ジャニーズの芸人さんたちが世界一美味しいラーメンを作るってテレビの企画。
それ自体はイイとしても、福島の小麦粉を使うとか?
更に「先入観」を与えないようにブラインドテストで試食会とか?
一般人を内部被曝実験のモルモットにしている。

それならダッシュ村でロケが出来ただろ~に??
この芸人さんたちは本当に食べて応援しているのか?
数年後にこの実験に参加させられた人々に健康被害が出ても、

贖罪はしないんだろ~な。
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1世紀前のアメリカ人ジャーナリストの警告 (宗純)
2016-04-03 11:26:01
ちくわさん、あたし新聞さん、コメント有難うございます。

正誤や善悪の判断ですが、実はそれほど大事ではない。社会全体から見れば些末な話なのです。此処が勘違いするミソですね。社会全体には膨大な量の情報があり、その中で重要な最優先のものと、それほどでもない二番手のものと、ほぼ、無視してもよい些細な話とに選別することこそが、政治経済など社会科学では最も大事な要素なのです。
それぞれのパーソナリティが重視され、ごく少数の例外的なものでも細分化して研究する自然科学とは根本的な部分で違っている。
社会は細分化した段階で、『社会』では無くなっているのですよ。丸ごと大きいままで判断する必要があるのですが、これが今の人々は苦手なのです。だから簡単に騙される。
『試されるのは知識より取捨選択』であり、
『ニュースと真実の違いを見抜く』ことが重要で、
リップマンの『世論』にあるよに、
『私たちが自由意思だと信じているものは、多くの場合、マスコミを通じ意図的に作られている』のです。

それにしても政府権力の悪質な世論誘導と、反ナチ運動で処刑された白バラ、最後が地域医療とくれば、これはもう政府やマスコミが必死に隠し続けるフクシマの放射能被害の蔓延しかないでしょう。
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