より
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原発のコスト試算、日本政府「最安」、欧米は高騰
日本政府は原発が「最も安い」として、2030年に総電力量の2割以上にするといいます。でも、それには国の支援が必要ともいいます。本当に安ければ、支援も必要ないはずですが……“
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政府は今年、30年時点での原発の発電コストは1㌔ワット時当たり10・3円以上と試算しました。ここで言う発電コストは、新たに建設して、廃炉をするまでにかかる総費用を発電量で平均化したもので、すでにある原発ではない点に注意が必要です。建設費などの「資本費」、東京電力福島第一原発事故後の規制強化に伴う「追加安全対策費」、日ごろの人件費などの「運転維持費」、発電に使うウランなどの「燃料費」、事故に備える「事故リスク対応費」、立地交付金など税金でまかなわれる「政策経費」からなります。
10・3円に「以上」とつくのは、事故リスク対応費が福島事故による廃炉・賠償費用で増える可能性があるからです。ただ、その費用が今後10兆円増えても、発電コストの上昇はO・4円。ライバルの水力(11円)や石炭火力(12・9円)と比べても最安ですo
ところが、この政府試算に「現実的な値でない」と米大手金融経済情報サービス会社のエネルギー市場調査部門、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)が指摘しています。建設費を疑問視しています。
BNEFは世界で建設計画がある原発について、実際の資金調達も考慮して発電コストを独自に計算しています。15年上期では、1㌔ワット時当たり5・2~29・4円(1㌦=114円換算)。アリ・イザディ駐日代表は「国によってかなりばらつきがある。中国などがかなり安い」と言います。
最大の29・4円は原発大国のフランスで建設中のフラマンビル3号機「完成が大幅に遅れ、建設費が膨れあがっています。
実は先進国では、規制強化もあって建設費がうなぎのぼりです。英国が計画するヒンクリーポイントCの発電コストは18・O円、米国で計画の原発も平均26・2円とBNEFは試算します。安全性を高めた最新式で建設実績があまりないこともありますが、数十年近く原発をつくっていない英米では、建設技術のノウハウがうまく継承されていないことも原因と見られています。
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政府の試算は、05年に運転開始した東北電力東通1号機など比較的最近つくられた原発の建設費をもとにしています。関係者は「日本はこれまで比較的安定した費用で建設してきた」と言います。
ただ、福島事故を受け、当面は日本では新規建設は難しく、つくるとしても日本も安全性を高めた新タイプが必要です。規制強化で建設許可の取得にも時間もかかるでしょう。日本でも30年ころには建設費の大幅上昇は避けられそうになく、「10・3円」は「現実的でない」というわけです。
政府試算にはほかにも課題があります。例えば、燃料費(1・5円)には、使用済み核燃料を再処理する費用や高レベル放射性廃棄物の処分費用なども含まれ、それぞれ0・5円、0・04円と、ウラン燃料(O・9円)に比べてかなり安いです。これは将来に実施する事業を、現在の費用に換算するときに、年3%ずつ割り引いて考えているためで、「世代を超える長い事業は不確実性が高いのに、安くみえる」と大島堅一・立命館大教授は指摘します。
実際には、青森県の工場の建設費が当初の約3倍の2・2兆円に膨らむなど、総額12・6兆円とされる再処理事業は電力会社にとっては大変な「重荷」です。最終処分場にいたっては先行きがまったく見通せません。政府の発電コスト試算では、こういつた「現実」も見えにくくなっています。
取材記者の一言
政府の発電コスト試算は、福島事故による廃炉・賠償費用を考慮しても、「原発が最も安い」と原発推進の根拠としています。もしそうならば、来春以降の電力自由化でも勝ち残るはず。 「ベースロード電源」というなら正々堂々、支援なしでほかの電源と競争させるべきだと思います。 (桜井林太郎)
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原発のコスト試算、日本政府「最安」、欧米は高騰
日本政府は原発が「最も安い」として、2030年に総電力量の2割以上にするといいます。でも、それには国の支援が必要ともいいます。本当に安ければ、支援も必要ないはずですが……“
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政府は今年、30年時点での原発の発電コストは1㌔ワット時当たり10・3円以上と試算しました。ここで言う発電コストは、新たに建設して、廃炉をするまでにかかる総費用を発電量で平均化したもので、すでにある原発ではない点に注意が必要です。建設費などの「資本費」、東京電力福島第一原発事故後の規制強化に伴う「追加安全対策費」、日ごろの人件費などの「運転維持費」、発電に使うウランなどの「燃料費」、事故に備える「事故リスク対応費」、立地交付金など税金でまかなわれる「政策経費」からなります。
10・3円に「以上」とつくのは、事故リスク対応費が福島事故による廃炉・賠償費用で増える可能性があるからです。ただ、その費用が今後10兆円増えても、発電コストの上昇はO・4円。ライバルの水力(11円)や石炭火力(12・9円)と比べても最安ですo
ところが、この政府試算に「現実的な値でない」と米大手金融経済情報サービス会社のエネルギー市場調査部門、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)が指摘しています。建設費を疑問視しています。
BNEFは世界で建設計画がある原発について、実際の資金調達も考慮して発電コストを独自に計算しています。15年上期では、1㌔ワット時当たり5・2~29・4円(1㌦=114円換算)。アリ・イザディ駐日代表は「国によってかなりばらつきがある。中国などがかなり安い」と言います。
最大の29・4円は原発大国のフランスで建設中のフラマンビル3号機「完成が大幅に遅れ、建設費が膨れあがっています。
実は先進国では、規制強化もあって建設費がうなぎのぼりです。英国が計画するヒンクリーポイントCの発電コストは18・O円、米国で計画の原発も平均26・2円とBNEFは試算します。安全性を高めた最新式で建設実績があまりないこともありますが、数十年近く原発をつくっていない英米では、建設技術のノウハウがうまく継承されていないことも原因と見られています。
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政府の試算は、05年に運転開始した東北電力東通1号機など比較的最近つくられた原発の建設費をもとにしています。関係者は「日本はこれまで比較的安定した費用で建設してきた」と言います。
ただ、福島事故を受け、当面は日本では新規建設は難しく、つくるとしても日本も安全性を高めた新タイプが必要です。規制強化で建設許可の取得にも時間もかかるでしょう。日本でも30年ころには建設費の大幅上昇は避けられそうになく、「10・3円」は「現実的でない」というわけです。
政府試算にはほかにも課題があります。例えば、燃料費(1・5円)には、使用済み核燃料を再処理する費用や高レベル放射性廃棄物の処分費用なども含まれ、それぞれ0・5円、0・04円と、ウラン燃料(O・9円)に比べてかなり安いです。これは将来に実施する事業を、現在の費用に換算するときに、年3%ずつ割り引いて考えているためで、「世代を超える長い事業は不確実性が高いのに、安くみえる」と大島堅一・立命館大教授は指摘します。
実際には、青森県の工場の建設費が当初の約3倍の2・2兆円に膨らむなど、総額12・6兆円とされる再処理事業は電力会社にとっては大変な「重荷」です。最終処分場にいたっては先行きがまったく見通せません。政府の発電コスト試算では、こういつた「現実」も見えにくくなっています。
取材記者の一言
政府の発電コスト試算は、福島事故による廃炉・賠償費用を考慮しても、「原発が最も安い」と原発推進の根拠としています。もしそうならば、来春以降の電力自由化でも勝ち残るはず。 「ベースロード電源」というなら正々堂々、支援なしでほかの電源と競争させるべきだと思います。 (桜井林太郎)
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