カレーなる日々 / शानदार दिन

インドの日常を中心に日々を綴っています。

「下弦の月」吉村昭

2024年07月08日 21時57分59秒 | 本 / BOOKS

1989年発行の吉村昭の短編集。

もともと吉村昭氏を知ったのは吉村氏がボクシングを題材とした
小説を書いていたからである。
この短編集にはボクシングを題材とした「十点鐘」が入っていた。

あるボクサーの引退試合を観た事で、
昔の別のボクサーを思い出し、そのボクサーの引退後の姿を追っていく。

 私も引退試合を観た事がある。
 応援していた選手が引退する時にも観に行ったし、
 たまたま観に行った興行で知らない選手の引退試合に巡り会った事もある。

 一般的にチャンピオンだったとか、名のある選手の引退試合では、
 花道を飾らせるために噛ませ犬と言われる外国人選手を選ぶことが多い。
 引退すると言う事は己の限界を知っているわけだから、
 全盛期より力は落ちている。当然、勝てる相手を選ぶわけだ。
 少なくても怪我せずにリングを降りる事が前提である。

さて、この「十点鐘」では、現役当時からすでにパンチドランカー
(頭部を打たれる事で身体に異常をきたしている)になっていた選手がいた。
引退後はネームバリューもありボクシングジムを開いていた。
東京の下町の工場地帯では体力自慢の男たちが多く、
元選手のジムはそこそこ繁盛してた。

ところが元選手はパンチドランカーなので我を忘れてしまい、
ある時に練習生に怪我をさせてしまい、ジムは閉鎖に追い込まれる。

生活に追われた元選手は奥さんに暴力をふるい、
奥さんは幼子を置いて逃げてしまう。
生活能力がない飲んだくれの元選手は幼子を死なせてしまう。

その後は旅芸人の一座に身を置き旅先で殴られ屋として生きて行くが、
パンチドランカーの上に飲んだくれだった事で、
ついには死んでしまっていた。と言うのであった。

まぁ不思議のない当然の結末だった。

何も足さない、何も引かない吉村氏の小説である。

7作品を収めているが、タイトルの「下弦の月」は、
1926年(大正9年)に起きた実話である。

千葉県の荷車引きの男が痴情関係のもつれから、
相手の女性と親戚や関係者4人を殺害し自殺した鬼熊事件がそれである。

面倒見がよく人望は厚かったが真面目故に女性に騙されてしまい、
逆上して見境がなくなってしまった男。指名手配され、
警察や消防団5万人を動員して捜索されたにもかかわらず、
1か月以上も山中を逃げ回り(実際には村人に匿われ)、
最終的には自殺。

これを新聞記者の視点から描いているのが凄いと思った。

1990年にTVドラマ化されている。
主演は火野正平、なるほど・・・・。


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