講談社・1785円/しんぽ・ゆういち 61年生まれ。作家。『ホワイトアウト』『奪取』『覇王の番人』など。
戦国時代の隠れた一面を照射
江戸川乱歩賞作家の手になる、戦国時代小説の第二弾である。
江戸時代に比べて、この時代は信頼すべき文献史料が少なく、考証的にもめんどうといわれるが、常に未開の土地の開墾に挑戦する、著者らしい選択といえよう。
本書の主人公細川政元は、応仁の乱で東軍の総帥を務めた細川勝元の息子である。
織田信長に先駆ける、変わり者の武将だった、と伝えられる政元の、聡明丸と呼ばれた子供のころから、家臣によって暗殺されるまでの41年の生涯が、独自の手法と語り口で、淡々とつづられる。
著者は、政元自身の視点をあえて排除し、政元に関わる人びとの目を通して、上下左右さまざまな角度から、その人物像を浮かび上がらせるという、凝った手法を採った。
政元の後見役を務める、分家・典厩家の当主、細川政国。腹違いの姉で、政元がひそかに思慕する安喜こと尼僧の洞勝。
政元の重臣、香西元長と安富元家。
将軍足利義政の妻で、裏で隠然たる権力を振るう日野富子。
そうした人びとの視点から、政元の茫洋かつ超然とした人物像が、印象的に描き出される。
修験道に凝り、生涯、妻を持たなかった政元の生き方は、表面的には勝手気ままと受け取られよう。
政元が何を考えているのか、読者にも分からない。
そこから、いかなる人物像を思い描くかは、読者の判断と解釈にゆだねられる、といった風情である。
政元は、決して表舞台に立とうとせず、つねに冷静に人の器量を評価し、それによって人を自在に動かす。
その本領は、足利将軍の首をすげ替える、というところにまで及ぶ。
著者の本意は、戦国活劇を書くことにはなかっただろう。
政元という多分に奇矯な人物を核にして、戦国時代の隠れた一面を照射するのが、真の狙いと思われる。
そこには、今の政局の混乱に通じるものもあって、終始興味深く読まされた。
評・逢坂 剛 作家
最新の画像[もっと見る]
- It was a top 10 searcher on 2024/7/20, 19:48. 52分前
- It was a top 10 searcher on 2024/7/20, 14:54. 6時間前
- ヘンドリック・ハメルの報告書は、ヨーロッパに初めての朝鮮に関する詳細かつ正確な描写を与えた。 6時間前
- ウィリアム・アダムス(三浦按針)生い立ちと青年時代、リーフデ号の航海、日本漂着、家康の引見 6時間前
- 再発信!韓国人は、私たちの知らない所で、日本人を「島国」と呼んで、蔑称しているらしいが、 8時間前
- 属国にした事など歴史上一度もなかった…韓国人が、「恨」を、日本人に向けるのは、全くのお門違い。 8時間前
- 向けるのであれば中国に、貴方がた自身でもあったろう両班に、貴方がたの国自身に向けるしかないのであって、 8時間前
- Top 20 Searches on 2012/8/29 8時間前
- It was a popular page yesterday, 2018/7/20. 11時間前
- It was a popular page yesterday, 2019/7/20. 11時間前