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ペロシ訪台が暴いた中国の「現実」…ぺロシ訪台の一件は、戦略というものを学ぶうえで、実に役に立つ教育的な例だ。 

2022年08月31日 09時46分44秒 | 全般
以下は下記添付の月刊誌Hanadaの巻頭を飾る、E・ルトワック氏の連載コラムからである。
ペロシ訪台が暴いた中国の「現実」
ぺロシ訪台の一件は、戦略というものを学ぶうえで、実に役に立つ教育的な例だ。 
第一に、アメリカの新聞のコラムニストやシンクタンクや大学の「中国専門家」たちが、中国の行動をいかに読み解けばいいのか全くわかっていないことが判明した。
彼らはこぞって「ぺロシの台湾への訪問は危険だ!」とコメントしており、結果的に”中国の脅威”を増幅する役割を果たした。
だが、中国が喧伝する脅威というのは、「実際に兵力を動かすことによって事態をエスカレートさせることができる」と相手に思い込ませる点にある。
この脅しは、実際の世界の「現実」とはかけ離れたものだ。 
では、その「現実」とは何か。
中国がロシアのように戦争を開始し、G7から同レベルの経済制裁を受けた場合、中国では二十四時間以内にアメリカやカナダから大量に輸入されている大豆やとうもろこしなど食糧の流れが止まってしまう。
その瞬間から三ヵ月も経てば、中国は国内で飼育している七五%の豚や牛や鶏を殺処分しなければならなくなる。
飼料が底をついてしまうからだ。
つまり、外国からの輸入に依存した状態なのだ。 
したがって、中国政府はトップが誰であろうと、プーチンのように「戦争を開始する」という選択肢はとれない。
戦争開始からたった二ヵ月で、貧しかった毛沢東時代の質素な食事に戻さなければならないからだ。 
実は中国はいま、このような状態に戻すことを意図せず「実験」している。
上海のロックダウンがそれだ。
この時、業者の冷蔵庫が機能せず、何百万人分もの肉や乳製品の流通が止まった。
「これでは飢えてしまう!」という悲鳴が上がったことは言うまでもない。 このような流れがわかると、今回、習近平が大きな間違いを犯したことが見えてくる。
環球時報のような中国のタカ派の国営メディアは、ぺロシが訪台すれば戦争が勃発するとまで煽っていた。
SNS大手の「微博」には日本の総人口を超える二億人の利用者がいるが、彼らはぺロシ訪台で愛国心を高ぶらせ、「戦争だ!」と沸き立っていた。 
ところが、実際は何も起こらなかった。
ぺロシは無事に台湾訪問を終え、そのあとで人民解放軍が軍事演習を開始しただけだ。
これはつまり、中国は「叫ぶだけ叫んで実際は何もしない」ということだ。
ロシアのSNSでは、これを「中国の脅し」として馬鹿にしている。 
習近平は、今回の一件で実に多くの中国人民を落胆させ、怒らせてしまった。中国共産党の内部にもこのことに気付いた人物がいる。
「習さんよ、ここまで事態を大きくしておきながら、何もしないのか。軍事演習だけでお茶を濁すのか」と。 
もちろん中国の大騒ぎのプロパガンダは、アメリカや欧州では「効いた」と言える。
識者たちが「リスクだ」「ぺロシのせいで台湾はあと少しで封鎖されるところだった」と過剰に反応したからだ。 
ところが、実際の動きはどうだったか。
ごく一部の会社は運航を取りやめたが、軍事演習が予定されているにもかかわらず、航空会社の飛行機はほぼ予定どおりに台湾に到着していた。
本当に物事を動かす人々は、中国の脅しが空っぽであったことを知っていたのだ。 
ここで大きく二つのことがわかる。
一つは「中国には本気で戦争を戦うだけの能力がある」という過剰な評価だ。そしてもう一つは「西側諸国には中国の持っている力を積極的に信じようとする傾向がある」ということだ。
だが、現実的に中国は何もできない。 
むしろこれはチャンスだ。
アメリカ議会は彼女を新疆ウイグル自治区にパラシュートで降下させてもよい。
そして、このたった一人の八十二歳のアメリカ人女性に中国がどこまでパニックになるのか様子を見るのだ。
スキーでチベットに入ってもよい。 
中国は独裁国家だが、国民の声はインターネットに表れる。
具体的には、先ほど述べたウェイボーだ。
そして、このSNSは習近平にとって都合が悪い。
共産党大会が開催される秋に向けて、彼は政治的に波風の立たない状態で乗り切りたいと思っているにもかかわらず、ネットの愛国的な声は、弱腰の習近平政権に対して反旗を翻している状態だからだ。
これは、政権内で彼に反感を覚えている人々に権力闘争の道具として利用されかねない。 
何も報復をしない習近平は、結果的に中国の評判にダメージを与えた。
毛沢東であれば違った。
彼は第一次・第二次台湾海峡危機の金門島や馬祖島への砲撃などでもわかるとおり、なめられたと思ったら躊躇なく爆撃している。 
ところが習近平はヒトラーではなくムッソリーニだ。
大口だけ叩いて、結局は何もしない。
われわれは中国政府の大騒ぎする宣伝文句などに騙されてはならない。
それは過剰反応というものだ

 


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