「崋山先生筆・文政丁亥・於田原龍泉寺客舎・高木梧庵蔵印」という軸類を
私は10本ほど確認していて、半数は私の所蔵である。(写真はそのうちの1本)
ところが最近、この落款のあるもので疑問を持たざるを得ないものを散見する
に至った。それらは絵が稚拙なのはいうまでもないが、次の様なものは気を付
けたほうがよい。①崋山の山がない。②高木の姓がない。③年月がない。④
印が細長でなく四角である。⑤丁未の年のもの。⑥印がない。崋山の絵は本物
は千本に一本といわれ、最近見るものはまずダメといっていい。これまで述べた
梧庵蔵にまでニセ物があるということは、当時、すでにこの手で崋山の本物があ
った証明になることであろうか。立命館大学蔵の「李著筆漁楽図模本」などは
私は崋山の本物とみているが。
渡辺崋山画の巨人力士大空の掛軸は、現在、アメリカのクリーブランド美術館
の所蔵である。崋山はこの大空をもう一本描いて、それは私が所蔵している。
その辺のいきさつは、『相撲趣味』163号に詳述した。その二本の大きな違い
を記すと、大刀の先端が切れているのを直したこと、右足の裾を張り出して安定
感を出していること、着物のシワが異なることなどであり、その他はほとんど
同じである。崋山の絵を他人が写したとなれば、わざわざ一部を変えて筆写する
ことなど考えられない。従って、二本とも崋山が描いたものと思われる。なお、
早稲田大学本は私の絵の模本である。私の大空の絵の裏に、崋山の弟子の高木
梧庵が所蔵していた落款がある。それについては、明日紹介する。