ウクライナ侵攻について:口実分析・不可解な軍事行動・未来予測

2022-03-11 12:00:00 | 感想など



前回はウクライナ侵攻の背景にある思想・世界観(ネオ・ユーラシア主義)という視点で記事を書いた。そこで今回は、具体的な軍事行動とその特徴について、ロシアの軍事専門家小泉悠の分析を聞いてみたいと思う。


まず冒頭に、今回の軍事行動に対するロシア側の言い分とその疑問点が述べられている。おっしゃる通り、ウクライナ側で非人道的な行為が広く行われていて、かつその証拠を掴んでいると言うのならば、国連など然るべき機関に訴え出るのが先であり(念のため言っておくが、国連が必ずロシアに味方するという意味ではない)、それもせずに軍事侵攻しても、その不自然さから単なる口実と見透かされることぐらい想定できるはずである(何だったら、1956年のソ連によるハンガリー侵攻を、同年英仏らによる第二次中東戦争への国際的非難が半ば覆い隠してくれたように、「本当はあったはずの非人道的行為が、より大きな批判の対象が生まれたことでうやむやになる」ことすら起こりうるという事例を、ロシア側も知らないはずはないのだが)。


要するに、それでも今回のような無理筋の行動手順(明らかな悪手)を取ったことは、「言い分には本質がない(少なくともさして重要ではない)」と見るのが戦略的・合理的思考というものだろう(たまにそれに釣られたらしきコメントを目にするが、情報を断片的にしか見ず、その周辺を考慮しないからそういうことになる)。なお、ウクライナの核開発についても同様の事が言えるが、これはアメリカのイラクに対する大量破壊兵器云々とイラク侵攻を想起すれば、思い半ばに過ぎるというものだ(ついでに言うなら、後の軍事行動の話にもかかわるが、アメリカがイラクを第二の日本にできると夢想したように、ロシアもウクライナそのような幻想を抱いていたのかもしれない)。


さて、私が動画の中で最も印象に残ったのは、「然るべきオペレーションが行われていない」という話である。


具体的には動画の内容を見てもらうとして、例えば航空支援なしで空挺部隊の降下を行おうという暴挙などは、およそ21世紀の戦争とは呼べない明らかに不自然な軍事作戦と言える。問題は、これが一体何に由来するかだが、合理性を欠いてるだけにこれはなかなか難問である。考えられることとしては、

1.
15万もの大群を集結させる威圧行為で相手の抵抗意欲は挫くことができると考えた

2.
征服後の統治を考慮して被害を大規模化するのを避けたかった(傀儡政権を作っても、反政府ゲリラが跋扈したら不安定な状況が避けられない→でもNATOには加盟できなくなるからそれでも目的達成では?)

3.
何らかの不確かな情報に乗ってしまった

4.
背景にある「同じスラブ民族」という意識・イデオロギー(前回紹介したネオ・ユーラシア主義を想起)

あたりだろうか。


あるいは、前線の兵士がリアルな戦争とは知らされていなかった(軍事訓練と聞いていた)という情報もあるし、ロシア政府はこれを「戦争」と呼ばせないよう国民を指導さえしてるから、意思統一がなされていないことも影響している可能性はある(とはいえ、まっとうな軍事思想から明らかに外れたオペレーションをやっていれば、訓練でもおかしいと思う人間は出てくると思うが。あるいはそういう疑心暗鬼がさらに混乱や不統一を招いているのかもしれない)。


さて、今後の展開についての予測だが、核抑止や仲介についても言及されており、特に前者は「いざとなったら核が打てるから手を出せない」的な意味の核抑止を超えて、核の限定使用による威嚇のバリエーションについてもかなり具体的なオプションと狙いまで踏み込んだ話がされていて、大変参考になった(威嚇に対する威嚇でのカウンターまで準備されてるとは恐れ入ったわ)。


というわけで、まだ先行き不透明なウクライナ侵攻だが、引き続きその動向については注視していきたいと思う。

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