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「一番なりたい職業は公務員」の背景:あるいは抽象的に「夢を持て」と言う事の無責任さについて

2025-03-28 11:44:46 | 生活

 

 

 

「高校生のなりたい職業1位は公務員」という調査結果を聞いて驚くのは、自分が無知蒙昧だと宣言しているようなものであり、もう少し考えて発言した方が恥をかかずに済むのではないだろうか。

 

これには二重の背景がある。一つは、2019年の記事で述べたように、親の希望する就職先1位は国家公務員、2位は地方公務員で全体の20%を占め、大学1・2年生の希望する就職先1位は地方公務員27.5%、国家公務員19.5%で全体の半数近くを占めているという結果が出ており、5年以上も前にこういう結果は想定の範囲内で、何を今さら驚いているのかという話だからだ。

 

この後でさらにコロナ禍があり、日本のGDPが4位に後退、トクリュウや闇バイトのような犯罪が顕在化し、インフレが生活苦を生んでいる…つまり、社会の不安定性は以前より増しているわけで、そこで約4割が就職することになる高校生(日本の大学進学率は60%弱)が、「公務員」という職業を選ぶことを不思議がる方が、むしろ頭がどうかしているとさえ言えるだろう(この辺りは、地場産業や公務員など一部の仕事以外厳しい状況に置かれている衰退傾向の地方であれば、なおのこと「合理的思考」の結果だ)。

 

そしてもう一つは、以前の記事でも指摘したような自己責任論が幅を利かせる社会と、それが必然的に生み出すリスクヘッジマインドである。つまり、何か瑕疵があれば袋叩きに遭うような社会においては、リスクの少ない道を選ぼうとするのは当然と言えよう。このように表現すると、単に「出る杭を打つ」ような風潮である思われるかもしれないが、事はそう単純ではない。例えば仮に、ここで自分の近しい人間が、「サッカー選手になりたい」と言ったとしよう。その人が真剣に言い分を聞いていればいるほど、その次に出てくる言葉は、「キャリアプランとその情報は調べているか?」であろう。

 

というのも、プロのサッカー選手になれるのはそもそも何割程度なのか、それだけで生活が成り立っている(副業しないでも食っていけてる)人間は何割なのかをよく調べもせず、セカンドキャリアもイメージもなくそう言っているのならば、レッドオーシャンであることを理解もせず「YouTuberになりたい」だの「声優になりたい」だのと言っているのと同じで、単なる世迷い事の域を出ない。例えば企業に所属してサッカーを続けるという選択肢がある一方で、J3やその下のクラブチームにいる場合は、そもそもサッカーだけで生活を成り立たせることさえ困難なケースも少なくない(クラブチーム内でスタッフとして働くことを副業とするなど様々な事例あり)。

 

「なりたいものにいきなりダメ出しする」「夢を頭ごなしに比定する」というのはおかしな話ではあるが、上記のような確認もなしにただ夢を持つことは素晴らしいと言っているのは、「単に我が事じゃないから無責任な物言いができる」というだけの話でしかない(これは身近な人間であれば子どもを持つ現実的な負担から軽々しいことは言えないのに、社会一般の話になると、途端に無責任に「子どもは二人生んで当たり前などと放言してしまうマインドと同じである)。企業分析も業界分析もせずに就活をする人間が愚昧であるのと同じで、その業界の構造やキャリアイメージもなしにその道のプロフェッショナルを目指すのは、単なる自殺行為でしかないのである。

 

以上のような背景を踏まえると、今回出てきているような調査結果に対してなすべきことは、「夢を持て」という極めて抽象的かつ無責任で愚昧なアドバイスをするのではなく、「公務員=安定・安泰と思っているかもしれないけど、その業務の多様性とかも含めてちゃんと調べた方がいいよ」というものである。

 

例えば以下のような情報を提供することもできる。

 

 

 

 

 

 

要するに、公務員と一口に言っても、国家公務員か地方公務員か、また何種なのかによって状況は大きく異なるし、同じ地方公務員の同じ種であっても、配属先によって全く状況は違うため(そりゃそーだ)、「とりあえず公務員になれば上がり」という発想は愚の骨頂ということである。

 

要は、「曖昧な安全志向」に対して「曖昧に夢の重要性を語る」のではなく、「徹底した情報収集を勧める」ことがミスマッチを防げるし、本人のより良いキャリアのためにもなりやすいという意味で、責任ある態度と言えるのである。

 

我々がいくら「大人」と言っても、所詮はごく狭い世界しか知らないものだ(キャリアコンサルタントでもしていれば別だろうが)。しかしそれにもかかわらず、社会を知っているかのようにして子どもたちのマインドを賢しらに論評することの滑稽さをこそ、この番組は反面教師的に示していると言ってよいのではないだろうか。

 

以上。


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