死刑の効果

2018-09-13 12:31:23 | 生活

(登場人物)

スペック=S  ドイル=D

 


相変わらず死刑の是非が話題になってるよな。

 


何だい藪から棒に。

 


光市のヤツ。こないだ本にもなってたじゃねえか。

 


ああ、「なぜ君は絶望と闘えたのか?」だったけ?藤井誠二や宮崎哲也との鼎談の方は読んだけど、そっちはまだだな。

 


オラぁよ、そういう凶悪犯どもを殺すことに何の罪悪感も抱かねえ。むしろ俺が殺す役を買って出てえくらいだ。

 


異議なし。川口市の監禁&コンクリート詰め殺人とかも経緯を見る度に殺意しか湧かねーしな。

 


しかしよ、それに効果があるかって話んなると別口じゃねーかと思うわけよ。

 


ほう、そいつぁどういう意味だい?

 


例えば通り魔だが、むしろ死刑にしてくれと言いやがる連中もいる。こいつらにとっちゃあ死刑はむしろ「望むところ」だし、死刑になるぜと脅しをかけたところで、効果があるのかって話よ。凶悪犯罪の歯止めにならねーんだとしたら、死刑の意味ってーのは一体何なんだい?

 


まあそういった案件に関して言うなら、そうかもしれねえな。

 


だろ?池田小の事件とか色々あるけどよ、わかりやすいから作品で例を挙げると、「葛城事件」がそれだ。親父の行動によって尊厳が破壊された弟は、通り魔で多数の人間を殺傷し、捕まった後も死刑回避を拒否する。当然だ。ヤツは死にたいんだからな。そんなヤツに死刑の抑止効果なんかこれっぽっちもねーよ。

 


ほう、あの犯人は死にてーのか?まあそれは話の内容からしても理解できるが、じゃあ何で自殺をしねーんだ?

 


ああ、そいつは俺にも身に覚えがあるぜ。だからよ、通り魔の「誰でも良かった」って陳述も、それに対する反応もクソみてーに浅い説明でアクビが出そうになるんだがな。

 


おいおい、話が「死にたいなら何で自殺をせずに通り魔をするのか」から「通り魔という行為に及ぶ理由」になってるぜ。それに、そこまで他人様の意見をコケにするからにゃあちっとは新しみのあることを言うんだろうな。

 


新しみがあんのかどうかは知らねーが、簡単に言やあ真逆ってこった。

 


真逆??

 


「特定の誰かじゃいけない」んだよ。

 


はぁ???

 


俺の高校時代の例から精神構造を分析してみようか。そこは41人中男子が11人のみという編成で、3年間ずっとクラス替えがなかった。また、隔離病棟のように校舎の端っこに3学年とも位置し、結果として他クラスとの交流が体育などを除くと異常に少なく、全員連れションしたり、飯を食う時には男子全員固まって・・・という状況だった。女子は人数が多かったこともあってがっつりグループに分かれていたがね。

 


なるほど、非常に閉鎖的な環境っつーことかい。特に男子は。

 


だな。俺が話した印象では男子も女子も、全員が別に飛びっきりの善人もいねーし、悪人もいねー。目立ちたがり屋で裏表の激しそうなヤツ、バランサータイプで気を遣うヤツとかもちろんグラデーションはあるけどよ、どこにでもいるわな、ってレベルだ。それに、個々に話してみると話は通じるしまともな思考回路で善意のある人間たちだった。

 


話が見えねえな。それが集団になるとおかしくなるってことか?たとえば外れ者を徹底的に排除するような。

 


「束になったら怪物に豹変する」ってのは日本あるあるだが、そこまで極端な話じゃねえ。しかしなあ、当時流行りのJ-POPもほとんど聞いておらず、テレビもあまり見てなかった俺は全く話題についていけず、自然と孤立していくんだなあ。で、何だこの不毛で欺瞞だらけの時間と空間は?て感覚を強くしていく。

 


じゃあ空気になりゃあ良かったんじゃねえのか?

 


ククク、ところが人間そう強くもねえのさ。そういう環境は俺の精神を徐々に蝕んでいったんだ。人が俺を笑っているんじゃねーか?て幻聴が聞こえる程度にはな。とはいえ、だ。俺が彼らに合わせなきゃならないわけじゃねー。確かにその通り。じゃあそしたら、彼らが俺の知っている話をあえてチョイスする謂れもない、てのが真だろ?ただ、そこが平行線ってだけのことだ。だから表面上わかってるフリして上手くやればいいのに、あるいはまあそういうのを知ってみるのもおもしれーじゃんぐらいに考えて連中のネタを調べてみればいいのに、それが自己を曲げる欺瞞に思えて踏み出す気になれねーんだわ。

 

D
メンドクセー!!そこまで理屈でわかってんなら、それこそどうすりゃ一番合理的か考えろって話じゃねーか。

 


全くだな。まあ理屈っぽいだけのクソガキってことよ。ともあれ、そういった状況から出てくるのは、環境に適応できない怒りや苛立ち、そして承認の枯渇だ。まあここで止まっているならいい。しかしそこから、ドス黒い破壊衝動が湧き起こってくるんだな。

 

D
やっと本題くさくなってきやがったな。

 


だけどよ、その矛先を個々人に向けるのは間違っていると思わねえか?

 


個人には恨みがねえからってことかい?

 


その通り。しかも、さっき言ったように個人個人は格別悪人てわけでもねーんだ。じゃあどうする?

 


環境に合わせる術を学ぶ。学校を辞めるなどして環境を変える。悟りを開いて無我の境地に達する。

 


全くのところ「正しい」発想だわ。まともな思考をできている状態なら、な。しかし、そこで引っかかるのがさっきも言った自己欺瞞の話に加え、ある種のルサンチマンが出てくる。なぜ俺が、俺だけがババを引かねばならないのか(変わらねばならないのか)、と。

 


二項対立でしかモノを考えねーヤツはこれだから。新しい何かを求めるとしても、それは自分に新たな要素が一つ加わるだけっていうプリズム的発想がなんでできねーかな。

 


それはタイムマスィーンにでも乗って当時の俺に言ってどうぞ。でだ、「個人に矛先を向けるのは間違っている→環境そのものの破壊を志向する」となり、そこで出てきた発想が、「自分も含め教室をクラスごと爆破する」だ。

 


狂ってるわアナタ。

 


由紀子ネタは誰もわかんねーから置いていて、だ。全くディモールトクレイジーな結論だが、改めて考えてみると、これってとても「論理的」で「合理的」と思わねーか?だって、特定の個人に怨みは無いんだぜ?だったら誰かを殺傷することは論理的におかしい。だからもっと大きなものへの破壊を目指す。そして、ここがミソなんだけど、そういう手前勝手な発想をする自身への軽蔑と憎悪も強烈に存在しているわけ。だから、教室ごと、そして自分ごとぶっ飛ばすという発想になるのさ。

 


なるほど、環境への適応を目指す、学校辞める(環境を変える)、自分だけ死ぬ、てのは一番わかりやすいし被害も少ない、ってのは考えてみりゃあ誰でもわかる。でも、最初はアイデンティティが邪魔をし、次にそれが産み出す周囲への破壊衝動が自己嫌悪へと結びつき、合理的選択の邪魔をすると。要するに、根源的な部分で納得いかないってわけだ。

 


園桃李。まあ一応言っておくと、意図的に誇大妄想的状況を設定することによって「実行」のハードルを極端に上げ、具体的な凶行に到るのを防ぐのは有効である、という計算をする程度には「理性的」だったがね。でもだからこそ、同時に観念の怪物化すると人間恐ろしいことを論理的に考え始めるものだなと思った記憶がある。そして、そういう発想に到った自分を恐ろしいとも思わなかったのもだいぶ壊れてるなあと感じたけど。まあ改めて「極限状況」における人間の信用のできなさを理解したし、「論理的」というのがいかようにも状況次第で狂ったものになりうることにも気づいた。ま、だからブラック企業とかに追い詰められた人たちが非合理に見える判断をすることを別に不思議に思わないってのもあるけど。

 


で、死刑の話は?

 


ああそうそう。俺は実際に通り魔をやってしまった連中と同じ人間じゃねーから確実には言えねーが、こういう発想の仕方は通り魔に通底するもんがあると思うわけよ。まあ「自己への罪悪感」については個人差が大きいかもしれんけど。ともあれ、そうした心持ちの人間に死刑をちらつかせて意味があんのかね?と疑問なのさ。たとえば昔の俺がさっきの凶行を発想した時、死刑になるのが怖いとか怖くないとか、そんなもん微塵も思わなかったね。むしろ、自分もまた爆破の中で死ぬべしと考えていた俺としては、こう言ったんじゃないか?「ええ、ぜひそうしてください」とね。

 


要するに、死刑が抑止力にならないんじゃね、ってこと?

 


Exactly(その通りでございます).まあ特殊なイカれた奴らにしか当てはまんねー話と思う人もいるだろうからもうちょっと「まとも」に聞こえる話も触れておくと、死刑の抑止力に疑問が呈されているのは、凶行に走るのが「その場の勢い」か、「絶対ばれないように計画してやる」のどちらかだから、という見解もある。たとえば、怒り狂ってその場で絞殺・撲殺とかね。あと、死刑を廃止した国で別に凶悪犯罪が増えてるわけじゃないしね。まあアムネスティインターナショナルの記事とかを見つつ、それでも死刑を存置すべきって言うのなら、統計的・数字的見地から議論をすべきなんじゃないかな。

 


うーんでもさあ、死刑って抑止以外にも被害者の感情的回復って効果もあるんじゃないの?てーのは、たとえ数字的に効果よりリスクの方が高いって結論になっても、ジョナサン=ハイト風に言えば「象」本体には訴えかけることはできないぜ。その場合、人は死刑存置を正当化する何かしらの理屈をひねくり出すだけのことじゃね?お前が「自分も含め教室をクラスごと爆破する」という狂った発想に到ったようにね。

 


うい、じゃあ次回はその点について話みるとすっか。


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