負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

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明治の文豪森鴎外の小説はすっかり教科書から消えた

2004年11月08日 | 詞花日暦
殉死を許してやったのは
慈悲であったかもしれない
――森鴎外(作家)

 明治期の文豪が教科書から姿を消す。森鴎外も例にもれない。急逝した知人の遺族が蔵書を整理した。浩瀚な鴎外全集三十八巻の買値は一万円にも満たなかった。部厚い一冊がコーヒー一杯にも値しない。古い時代の作家の凋落ぶりが際立っている。
 かつて三島由紀夫は鴎外の文章を絶賛した。自分が書きたい理想の文章だといった。時とともに古びず、いつまでも新鮮でありつづけるだろうと。たしかに簡潔で雄勁な文章は深い味わいがある。時代が変っても、味わいつくすことがない。
 鴎外最初期の時代小説『阿部一族』に登場する細川忠利の臨終に、殉死を願い出る家来がおおかった。忠利には次世代を継ぐ嫡子と近習の若者がいる。「老成人らは、もういなくてもよいのである。邪魔になるものである」といって、老いた家来の自死を許した。鴎外の作品が消えていくのを見やるのは、むろん「慈悲」といった問題ではないのを知っておきたいものである。