あゝ常に極光の彼方への思慕に戦きつゝ
夜半の太陽を夢みる……
――吉田一穂(詩人)
孤高の詩人という呼称にふさわしい人がいる。文学賞も文化勲章も無縁、おおくは清貧にあり、ごくわずかのかぎられた読者しか持たない。だが、凡俗にまみれず、冬の暗い天に光る天狼のように輝きを放つ詩人。強いて一人を上げるとすれば、まず吉田一穂を指差すことになろう。
北海道・積丹の寒村(古平)に生まれ、少年期を過ごした。オホーツク海の暗い冬の海は空との境もなく、雪混じりの北風が吹きすさぶ。ある冬のさなかに訪れたとき、南国生まれの筆者にはまるで世の果てに思えた。大正十五年、二十八歳で刊行した第一詩集『海の聖母』は、引用のような叙情と象徴の入り混じる詩語が鏤められた。
やがてそれは、「掌に消える北斗の印。/……然れども開かねばならない。この内部の花は」といった世界観を経て、「新月が消えてゆく…/半眼微笑の石仏たち」へいたる。年の終わりの深更、詩人が描いた一筆の絵「半眼微笑」を壁に留め、スクリャービンの交響曲ハ短調『神聖な詩』を響かせて、新たな年を迎えるとしようか。
夜半の太陽を夢みる……
――吉田一穂(詩人)
孤高の詩人という呼称にふさわしい人がいる。文学賞も文化勲章も無縁、おおくは清貧にあり、ごくわずかのかぎられた読者しか持たない。だが、凡俗にまみれず、冬の暗い天に光る天狼のように輝きを放つ詩人。強いて一人を上げるとすれば、まず吉田一穂を指差すことになろう。
北海道・積丹の寒村(古平)に生まれ、少年期を過ごした。オホーツク海の暗い冬の海は空との境もなく、雪混じりの北風が吹きすさぶ。ある冬のさなかに訪れたとき、南国生まれの筆者にはまるで世の果てに思えた。大正十五年、二十八歳で刊行した第一詩集『海の聖母』は、引用のような叙情と象徴の入り混じる詩語が鏤められた。
やがてそれは、「掌に消える北斗の印。/……然れども開かねばならない。この内部の花は」といった世界観を経て、「新月が消えてゆく…/半眼微笑の石仏たち」へいたる。年の終わりの深更、詩人が描いた一筆の絵「半眼微笑」を壁に留め、スクリャービンの交響曲ハ短調『神聖な詩』を響かせて、新たな年を迎えるとしようか。