負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

羽衣伝説はおとぎ話でなく、天女は実在の人間である

2004年11月23日 | 詞花日暦
余呉湖はこんな悲劇を秘め、
青い水面に白い雲を映していた
――澤田ふじ子(作家)

 琵琶湖の北にひそむ余呉湖は、冬の季節、雪に埋まってしまう。湖畔の風景は白一色におおわれ、かぎりない静寂に満ちあふれる。古代人の生活と文化を遺す『風土記』が伝えるのは、白鳥に化身してこの湖に舞い降りた天女たち。日本各地に残る羽衣伝説にもれず、里人は羽衣をかくし、彼女たちは囚われの身になった。
 天女は日本に渡来した朝鮮の娘たちだろう、と澤田ふじ子はいう。娘たちは養蚕や機織の技術を持ち、松の枝の羽衣は、日本人が見たこともない織物だった。里人は彼女たちに布を織らせ、富をえた。
 澤田は作家になるまえ、京都・西陣で織物の修業をした。女性の感性もくわわって、染色や織物に「文化の収斂」を感じ、そのなかに人間の深い思いや痛みを見る。「羽衣伝説は、一つの部族なり民族がもつ文化が、人身の略奪によって他民族に伝播することを物語っている」と彼女はいう。美しい話につくり変えられていることが、逆に略奪された娘の悲しみを感じさせるとも書いた。羽衣伝説は美しいおとぎ話だけではない。