負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

津軽には創世の神話に似たすぐれた無形文化財が残っている

2004年11月17日 | 詞花日暦
暗闇に藁が燃え、獅子が髪を振り乱して踊る姿が
異様な神秘さを漂わせる
――無名氏

 日本列島の西南に生まれ育った筆者にとって、東北地方一帯は見慣れぬものの宝庫である。青森県岩木町でとてつもない民俗芸能に出会った。町の無形民俗文化財「鳥井野獅子踊」は享保年号の残簡に記録が残り、津軽九代藩主寧親公の代に祝賀の宴で披露されたという。
 長い鼻毛を出した獅子面、奇妙な面貌の猿面の踊りは、滑稽さと激しさがない交ぜになって進行する。物語は四つのテーマに分かれていた。道行を表す「街道踊り」、三頭の獅子が新天地を求め、野を切り拓く「橋踊り」、三本の柳を立てた聖地としての山へ向かう厳粛な「山踊り」、男女の恋の争いと仲直りの「女獅子隠しの踊り」。
 京都伝来とも聞くが、それよりもここに表現された世界観のすごさに驚かされる。人類の出現から始まり、聖なるものの発見、典型的な人の交わりなど、まるで人類の創世と歴史を語る神話にも似ている。こんな壮大な世界観が片田舎の秋の闇夜に繰り広げられているのが、どうしてもにわかに信じがたい。