負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

メーテルリンクは女性の偉大さと男の愚かさを書いた

2004年11月11日 | 詞花日暦
堕落した女性でも、心の底には
愛は永遠なものという信念がある
――メーテルリンク(劇作家・詩人)

 少しまえ、男女のちがいを書いた本がよく売れていた。もしまだ女性は謎だと思う男性がいれば、一度はメーテルリンクにも耳を傾けてほしい。あの『青い鳥』の劇作家が、男性の愚かさと女性の偉大さについて書いている。
 まず男の愚かさは、知性や理性、富や利権、表層的な心理にこだわること。そのために家事にかまけ、自尊心が強く、泣き笑いし、歌を口ずさむ女を「ささやかな存在」としか見ない。他方、女は「神の膝元にいて、清らかな神秘の働きにすっかり身をゆだね」、「神秘の大海」にも似た魂にもっとも近い者であるとメーテルリンクはいう。
 もし女の存在をないがしろにすれば、世界は砂漠になり、理性だけが荒涼と支配するとも書き添える。理性という衣に隠れて戦いに明け暮れる男は、女が導く愛という魂の高みから身をそらす。愚かにも心底から女に愛を告げず、繰り返し戦争を始める男は、子供を抱いて泣く女に視線を凝らそうとはしない。

母の元型に隠された聖母と悪女の極端さに驚かない人はいない

2004年11月11日 | 詞花日暦
「理性」たるや、実は偏見と
近視眼の集まり以外の何ものでもない
――C・G・ユング(心理学者)

 フロイトとともに、二十世紀の新しい心理学を樹立したユングの名は、おおくの人が知っている。フロイトが個人的無意識へ焦点をあてたのに対し、人間が持つ心の集合的無意識を理論の根底にすえて、独創的な「元型」(アーキタイプ)による人間の姿を解き明かした。
 元型は人の心にある特定の形式を指すが、「母」という元型には驚かされる。ユングのことばによると、理性とはちがう智恵と精神的高さ、慈悲深いもの、保護するもの、成長と豊饒と食物を与えるものである。と同時に、隠されたもの、暗闇、深遠、呑みこむ、誘惑、毒を盛るものといった否定的な側面もある。まさに聖母であり、悪女である。
 ユングはみごとに女性の元型を抽出し、理性という近視眼では見えない広範な人間の姿を浮かび上がらせた。が、彼と同時代人メーテルリンクが説いたのは、否定的な元型の要素から女性を救い出すのは男性の愛であり、理性だけで断定しない思いやりである。