負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

好色文学の元祖は十六世紀のイタリア人である

2004年11月20日 | 詞花日暦
ルネサンス期の社会と人間を
リアルにそして辛辣に描いている
――結城豊太(イタリア文学者)

 イタリア・フィレンツェから列車で南へ小一時間、小さなアレッツォの町に一日を過ごした。陶器市が観光客を呼び寄せるようだが、春の一日はそんな観光客もいない静かなたたずまいだった。ルネサンス芸術愛好家に必読の名著『芸術家伝』を残したヴァザーリの家や詩人ペトラルカの教場が残っていた。
 筆者の目的は、この地の出身者ピエトロ・アレッチーノの痕跡を探すこと。町にとっては名誉な人物でないかもしれない。高名な歴史家ブルクハルトは、悪辣なジャーナリストの元祖として書いている。書簡集がいまも読めるが、ゆすり屋に近い辛辣な文面がおおい。きびしい批評精神をルネサンスに似つかわしい個性の発揮と評価する人もいる。
 もうひとつ彼の名を後世に残したのは、十六世紀を代表する好色文学の元祖としてである。後年、「アレッチーノ風」ということばが、その種の作品のキャッチフレーズになった。ジュリオ・ロマーノの挿画を添えた彼のソネットは裁判で有罪を宣告されたが、人間復興にふさわしく、人間のありのままを過激なまでリアルに描いた歴史的な作品である。