負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

「赤とんぼ」の歌は明治政府の押し付け唱歌に反対して生まれた

2004年11月14日 | 詞花日暦
知恵や分別だけでは詩や歌を
作ることが出来ません
――三木露風(詩人)

 大正七年、鈴木三重吉は児童向け雑誌「赤い鳥」を創刊した。それまで子供の歌といえば、明治四十四年に文部省が編纂した『尋常小学校唱歌』だけである。「忠孝の心」を養い、「歴史上の人物」をテーマに歴史を学ばせる補助教材だった。役人の「知恵や分別だけで」つくった唱歌に、三重吉の反発心は強かった。
 三木露風は、大正十年に「赤い鳥」の影響を受けた童謡集『真珠島』を出版した。「子供のほんとうの想像や感覚」「自分を歌うこと」にこだわった作品が収録されている。そのなかに有名な「赤とんぼ」が含まれる。兵庫県龍野の小さな町で育った露風は、名門に生まれた父の放蕩で離婚した母タカとともに過ごすことがなかった。夕焼けを見たのは「姐や」の背中。その子守も嫁に行き、実家に帰った母の便りもとだえる。
 美しい龍野の自然のなかで育まれた幼児の記憶は、歌のようにもの悲しい。赤とんぼも桑の実も日常から消えがちだが、子供の「ほんとうの感覚」はいまも童心に訴える。