負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

鶴の恩返しの古い民話には報恩の事実は見られない

2004年11月06日 | 詞花日暦
異類女房の話は、わが国とその近隣諸民族にのみ
特異的に語りつがれている
――河合速雄(臨床心理学者)

 木下順二の『夕鶴』でも知られるように、人間の女性に変身した動物が人間と結婚する昔話は、「異類女房譚」として分類される。円生の演じる「水神」のような落語の世界にまで広がっている。『夕鶴』では、助けられた鶴の女性が嫁して、恩返しのために働き、やがて正体を知られて去る。物語はなぜか女性の美しさ、悲しさに彩られている。
 しかし採集された古い民話には、報恩の事実はない。恩返しのために結婚する仏教説話の要素はなく、ただ鶴女房が押しかけるだけである。河合速雄によると、「鶴との婚姻ということが大切なテーマであったことを示している」から。
 また、去った鶴女房を探す夫は、彼女を見つけながら、一時の供応を受けるだけで連れ帰ろうともしない。腑に落ちぬこの事実も、「鶴との婚姻」だけが人々の主要テーマだから。河合は「人と自然とは不即不離のあいまいな、全体的な調和のなかに共存する」からという。自然のなかに生きる人間が、自然との関係を回復・再統合する試みとも。日本独特の自然観はすでに郷愁のなかにしかない。