犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

ゲゲゲの調布発信
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おかあたん

2023年03月01日 | 毎月馬鹿
昨日は老母の誕生日であった。
満90歳である。

自宅から3㎞ほどのところに在る特別養護老人ホームに
面会に行った。

「ここにはね、カータンがいらっしゃるのよ。」
ふーん。・・・ん?
「カータンって何?誰?
おかあさんってこと?誰の?」

母は自分の母親のことは「おかあさま」と言う。
カータンとは気安く幼いにも程が有る。おかしい。
このごろ認知症状が進んだとは聞いていたが、こういうことか。
母親がここにいる、と思うことも、
妙に幼い呼び方になることも、症状だろうか。

「カータンよ。知ってるでしょ。
ママと遊ぶのよ。」
「ママって。おかあさんとおかあたんが遊ぶの?」んんん???

「今日もね、お食事の時に大きな声で話してくださったの。
こうやってね、手振りも付けて。
いただきます、の挨拶をその人の合図でするの。」
「ふーん?みんなのおかあさんみたいな人なの?」
「違うわよ。カータンよ。」

うーん。職員さんのあだ名だろうか?
「あ、ほら、見えたわよ。」
かあたんさん本人が来たようだ。
面会している1階のフロアの奥、エレベーターから2人の人が降りて、
歩いて来る。
利用者さんと職員さんだろう。

あ。あれれ?
ああっ!
ああ、カータン!
カータンだ!
分かった。カータンだ!!!

チェック柄のオーバーオール。
大きすぎる頭部。いや、
河童の頭。
カータンだ!!!

久しぶり!



50年ぶりだよ!
50年前に会ったことが有るんだよ。
その時も母と一緒だった。

最寄り駅に行く途中の銀行に行った。
そこに、カータンがいた。

私が心の中に思い描いていたよりも、
なんだかずっと大きな頭部だった。

テレビ越しでしか見たことの無い人(?)が目の前にいることの緊張。
しかも、
通常の人間とほぼ同じ身長なのに、
頭ばかりがやけにでかいそのプロポーションに
私は面食らった。

しかも、とてもフレンドリーだ。
ずんずん近寄って来て、手を伸ばして来る。

泣いた。
怖くて泣いた。



それは50年くらい前のことだ。
今は大人だし。

カータンはゆっくり歩行器を押して、
エレベーターから降りて広いホールに出て来た。
「カータン!」
私は思わず声を掛けた。
カータンは足元を見るようにうなだれていたが、
顔を上げた。
私はもう一度呼んで、手を振った。

カータンは私が呼んだのに気付いて、こっちへ向かって歩き始めた。
わあああ
いやほんとにカータンだ。



丸くて大きな頭。
吊りズボンに膝あて。
赤いブーツ。
なんたってつぶらな瞳。
そして、どうしようもなく、カッパ。

うわああ。そして、近い。

テレビじゃなくて、目の前にいるんだ。
こりゃ、カータンだ。
母の言った通り、カータンだ。

カータンは歩行器を押して、ずんずん近寄って来た。
「ぽこやん!」
母の幼い頃のあだ名を呼ぶ。
「カータン!」
母も答える。
「カータン!」
私も答える。



横にいる丸顔の男性は・・・
やっぱり職員さんだった。

「しんぺいちゃんかと思った。」
思わず私は言った。
よく似ている。
「ははは。よく言われます。
似ているおかげか、親しくしていただいています。」
へええ!

私は子どもの頃から、絵を描くのが好きだった。
だから、サラサラと器用に絵を描くカータンは憧れの的だった。
私はお願いしてみた。
「絵を描いてくれませんか?
いつもいつも見てました!」

母の担当のケアマネージャーさんがサッと事務室に走った。
「こんなのしか無いけど」と、A4のコピー用紙とマジックペンを持って来てくれた。
カータンに付いていた職員さんが、小脇に抱えていたクリップボードを素早く出す。

「いいよ。
じゃ、ぽこやん描くね。」

目の前でカータンが絵を描いてくれている。
サラサラと滑らかに、
アッと言う間に似顔絵を描きあげた。
「わあ!すごい!ありがとう、カータン!」



それからほんの数分だけど、カータンとお話した。
家に帰ってから、いや、帰り道から、
幼い頃の記憶が不思議なくらい溢れてきた。
幼稚園の園庭のどこに何が有ったとか、
途中の道の家の塀の様子とか、
お弁当のにおいとか。

カータンに何かお礼をしたい。
今度行く時には、私の描いた絵を持って行こうかな?
いやー、ハードル高く感じてしまうな。
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