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「七人の侍」脚本の感想

2011-05-18 06:21:46 | 映評でなく、映画についてのエトセトラ
塩尻の図書館で借りた『全集 黒澤明 第四巻』に収録の「七人の侍」脚本を読む。

黒澤明と橋本忍と小国英雄の共作。黒澤明の弁によると小国が魂を担当、橋本がテクニックを担当・・・とある。同じ場面を黒澤と橋本で別々に書き小国が判定していたともある。

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勘兵衛(読む)「菊千代・・・天正二年甲戌・・・二月十七日生」
勘兵衛、急に大声で笑い出す。
菊千代「やいッ 何が可笑しいッ」
勘兵衛「ハハハハ、おぬし十三歳には見えぬが」

・・・というわけでこの物語は天正十四年ということが判った(戦国期の年齢は数え年なので、天正二年に一歳~天正十四年で十三歳となる)。
(音質の悪い映画ではなんて言ってるかよく判らなかったというか、勘兵衛の台詞の内容まで気にしていなかった。)
ラストシーンは田植えの場面でト書きにも「六月」と書いてあるから、勘兵衛たちが野武士と戦う準備をしていたのは天正十四年五月くらいだろう。
本能寺の変が天正十年、秀吉が関白になったのは天正十三年
作品では七人の侍も百姓たちも関西風の喋り方をする者はいないので、関東のどこかが舞台と推測。天正十四年当時の関東は秀吉の支配が及んでいなく、人望のない北条家が盟主として君臨していた。野武士の横行もなんとなくあり得そう。秀吉の関東征伐は天正十八年である。
そこで、もしもストーリーに思いを馳せてみる・・・
もし百姓たちが勘兵衛を雇わずに野武士と談合していたら、あるいは野武士が意外と頭が切れて、七人の侍が負けちゃっていたら・・・

天正十八年、豊臣秀吉は北条攻めの軍勢をあげる。野武士たちはもちろん義ではなく利で動き、秀吉方について略奪行為を繰り返し、ちゃっかり恩賞までもらっちゃう。そして野武士の頭目は小さな出城の親方になり、かつて野武士との談合で差し出された利吉の女房は、武将の奥方となってしまう。そして利吉の女房は、百姓一揆の首謀者となった利吉と再会する。
そんな運命に翻弄される夫婦の話なんてのはどうだろう。

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天正十四年という時代設定とわかり、微妙に疑問に感じていたことが解決。
映画にもあった「あの老人・・・なかなか一徹だで」という台詞
頑固者を意味する「一徹」という言葉は斎藤道三の家臣の稲葉一鉄という人物が頑固者だったことから生まれた言葉だと言われている。
「時は戦国」の「七人の侍」で「一徹」という言葉は早いのではないかと思っていたが、本能寺後四年もたった天正十四年ならありかもしれない。

ただし映画にも脚本にもある利吉の次の台詞は間違いである
「お前とこの娘出すつもりか・・・志乃はべっぴんだでなァ」

美人を意味する「べっぴん」は江戸時代に生まれた言葉だそうな。

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さて、脚本は映画の撮影台本とは所々違っている。編集で切ったのか、予算の都合で撮らなかったのか、削除された場面は沢山あり、撮影時に改変された場面も多数ある。この本では削除箇所は明記され、改変後の場面も相当長いシーンであっても正確に補記されているので、違いを楽しむ事ができる。

だいぶ変わったと感じるのはラストの決戦。
映画では野武士の頭目が民家の中から火縄銃で久蔵を撃ち、菊千代はその頭目と刺し違える。
読んだ脚本では久蔵を撃った野武士が頭目であるかどうかは判らない。別の頁、菊千代が抜け駆けして火縄銃を奪う場面では「頭分らしいのが」と明記されているのに対し、ラストの男は「野武士が一人」としか書いていないので、足軽ではないかと想像する。
その足軽は屋根の上から久蔵を撃ち、屋根にはい上ってきた菊千代がそいつと刺し違える。
大雨の中で屋根の上から火縄銃を撃てるはずがないし、菊千代が足軽ごときと刺し違えるというのはいくらなんでも重みがない。
映画の方が絶対にいい。

ラストの勘兵衛の名台詞も映画と脚本でちょっと違う
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【脚本】
勘兵衛「いや・・・勝ったのは・・・・あの百姓たちだ・・・儂等ではない」
また吹き過ぎる風
勘兵衛「侍はな・・・この風のように、この大地の上を吹き捲くって通り過ぎるだけだ・・・土は・・・何時までも残る・・・あの百姓たちも土と一緒に何時までも生きる!」
三人、田の面を見つめる。
その田の面に虫のようにかがみ込んでいる百姓たち
そして、その唄声。
利吉が音頭をとっている。
何か振り捨てるように大声で唄っている志乃。
風が田の面をサッと通り過ぎる。
(F.O.)

【映画】
(百姓たちの田植えの唄が描写された後で)
勘兵衛「いや・・・勝ったのは・・・・あの百姓たちだ・・・儂等ではない」
と、墓を見上げる。
キャメラ、静かにパンアップ。
刀を突き立てた四つの土饅頭に風が空しく吹き渡る。
(F.O.)

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脚本での勘兵衛の、勝ったのは百姓たちだ・・・、に続く台詞も、呼んでいるとジーンとくる。
とはいえ説明台詞っぽくもあり、文章ならではの台詞であって映画的ではないように思った。

ともかく文章で読み返してもやっぱり面白い「七人の侍」。夢中になって一気に読んだのだった。

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