英語教師のひとりごつ

英語教育について考える。時々ラーメンについて語ることもある。

英語教育において「定着」とは何か

2014-05-21 21:45:00 | 日記
教師はよく「生徒に学習事項を定着させる」というような表現を使います(し、私もおそらく何の気なしに使っています)が、よく考えてみると「定着」という言葉が何を指しているのかは、かなり曖昧だと思います。それぞれがそれぞれの意味で使っているのだと思います。『英語教育』(大修館書店)の2014年6月号はこの「定着」という言葉が英語教育で用いられた場合にどう捉えるべきかについて考えさせられる内容でした。以下、すべて同書に載っている論考について考察してみたいと思います。

まず和泉(2014)の考察では、まずSLAの観点からU字型発達曲線を用いて「定着」の曖昧さについて説明しています。U字型発達曲線とは、母語や第二言語習得の際にみられる発達段階の形状を指したもので、初期の模倣段階から規則抽出段階へ進むが、この際に初めは正確に真似していたものの、他の規則を学ぶことで混同して間違えが増加します。しかし、その後の学習によって間違いは解消されていく、つまりU字型で発達していくのだ、というものです。確かにそう考えると、どの段階を指して「定着」といえるのかは少し難しい問題であると思います。しかしだからといって和泉のいう「SLA研究で示されている様々な観点から見ても、従来的な意味の『定着』という概念は妥当性があまりない」(p.12)という結論を即なるほど、という気にもなりません。本当の意味での定着は、アウトプットで間違いのない言語使用ができるようになること(つまり第3段階へ進むこと)であって、その手順として和泉も述べているように、インプット→アウトプット→再度インプットとすることで、学習が進んでいくというイメージなのかな、というのが私の個人的な考えです。いずれにしても、和泉の指摘する「そもそも何をもって定着といえるのか」に関する答えは、同じ学校にいる教員間では意識を統一したいものです。

次に根岸(2014)では「『定着』の測り方」について述べていますが、非常に論が明確でわかりやすく、短い文章ですが確実にテスト作成への一助になると思います。ここで根岸が用いている「わかる段階」「使える段階」「使う段階」というのは、和泉の用いている3段階とは少し異なる(特に真ん中の使える段階が和泉とは少しずれている気がします)ことには注意が必要ですが、「使える」けど自信がないから使わない、という段階から「使う段階」へ生徒を持ち上げていくのは容易ではないにしても肝に銘じておきたいものです。またそうだとすれば、「時間差テスト」という発想には容易に賛成できます。

これら2つの考察を踏まえれば、会田(2014)の述べている「スパイラルな定着指導」という視点はかなりしっくりきます(ただし会田が使用している「自動化」のための活動のいくつかが果たして本当に自動化につながるのかは少し疑問です)。

最後に取り上げたいのは井口・鈴木(2014)です。「英語で授業」が「『定着』を促進」した、と述べていますが、個人的にこの辺の議論については少し慎重に考えなければならないと思っています。つまり簡単に結論を出すべきではない、という立場です。私自身90%以上英語で授業を行っていますが、果たしてそれ自体が生徒の「定着」にどんな影響があるか、について述べるのは不可能だと思っています。印象としてこうだ、というだけでは全く説得力がありません。結局「英語で授業」はあくまで教師側の手段や方法の1つであって、目的ではないので、それよりも「何を」「どのような活動を通して」指導することで目標を達成できるのか、が重要であると思います。こういうといかにももっともらしいですが、「英語で授業」についてなんら結論を出していませんし、煙に巻いたような答えになっています。でもそれが私の結論です。結局、教師はわかりやすくなるのであれば日本語で説明しようが全く問題はなく、つまるところ生徒が行う活動の時間がふんだんにあり、その活動を通して目標を達成できればよいわけです。英語で説明するのが大変ならば日本語の方がよっぽど生徒の理解を促すと思います。しかし「英語で授業」の効果の結論については「今じゃないでしょ!」という感じがします。


【参考文献】
2014.6月号『英語教育』.大修館書店.

身近なことを英語で話す練習5

2014-05-14 20:11:55 | 日記
身近なことを英語で話す。過去や未来の何気ない出来事について話す。まずはこれをできるようになることが英語で表現する能力を身につける第一歩だと思います。これができないのに難しいアウトプットをしようとしてもなかなか身につかないはずです。新しい学校の生徒にもそんな話をしながら、地道に簡単な英語でいろいろなことを表現する練習をしています。

さて、こんな時はどう表現したらよいのか、いくつか見ていきたいと思います。「花火」が「firework(s)」だと知っている方は多いと思いますが、手持ちの花火をなんというのかは意外と知られていません。英語では「sparkler(s)」といいます。たとえばこのように使います。

(1)I played with sparklers.
(2)I enjoyed sparklers

これがいわゆる「花火をした」という感じの表現です。

次に生徒たちはプリクラで写真を撮ったりしますが、プリクラをなんというのでしょうか。アメリカやカナダではプリクラはあまり有名ではありませんが、一時期登場したことがあります。プリクラは「photobooth」と呼ばれています。例えば次のように使います。

(3)I took photobooth pictures with some of my friends.(友達とプリクラを撮った。)

ただし、若い人以外に通じるかはわかりません。

また、最近は携帯などで自分の写真を写す「自撮り」が一般的になってきましたが、英語でもこれを表す「selfie」という表現がかなり定着してきました。例えば次のように使います。

(4)I took many selfies.(たくさん自撮りしたよ。)

このように、新しい語彙はまず使える文でインプットすることです。そうすることで応用が利くようになります。「まずは単語の意味だけ」はアウトプットを前提にしていないので、多くの場合実際に使えるようにはならないと思います。よって語彙は短い例文でシンプルに覚えることが大事だと思います。

ネイティブスピーカーは完璧なのか

2014-05-04 22:40:00 | 日記
英語でわからないことがあれば、私は辞書を引いたり、ネイティブスピーカー複数名に尋ねるようにしています。そこからより真実らしいことを探っていくことが大事だと思っています。「真実らしい」とは不思議な表現ですが、言語に完璧な正解を求めようとしても、特に英語は現在では多くの国で(第1言語あるいは第2言語、あるいは外国語として学んで)用いられているので、なかなか難しいと思ったりもします。

日本人である私が完璧(?)な日本語を話していないように、多くの英語のネイティブスピーカーも完璧(??)な英語を話してはいない、といわれればあたり前なのですが、意外とこの辺を理解していない人も多いと思います。私の日本語は本当にテキトー(この場合、ハチャメチャという意味のテキトー)で、このブログもたいして考えずに、思うがままにタイピングしていますが、やはり読み返してみると、我ながら日本語はかなりハチャメチャです。同じことは英語を母語とするネイティブスピーカーにもいえます。当たり前です。


英語のネイティブスピーカーはどんな間違いを犯すのか。たまたま今、授業でどのように文法指導を取り入れるかについて考察したくて読んでいたFolse(2009)におもしろい(?)話が載っていたのでいくつか取り上げてみます。

まず私は先日イギリス人のALTとテキストメールをしていたところ、こんなメールがきました。

(1)Enjoy you're time off too.

もちろん「you're」は「your」の間違いですが、Folseも述べているとおりこの手の間違いをネイティブはかなり犯します。これはもちろん発音が同じなのでスペルにも影響したものと考えられます。発音が似ていることによる間違いはほかにもこんなものがあります。

(2)My opinion is that the manager should of fired those employees on the spot.(私の意見では、支配人は直ちにその従業員たちを首にすべきだった。)(Folse(2009;p.327)より)

この「of」は「have」の間違いですが、これも発音が似ていることから混同されている間違いです。会話では「have」をかなり早く、そして弱く発音するため「of」のように聞こえます。そこから混同したものです。


また、日本では呪文のように覚えさせられたlieやlayの活用もかなり混同して用いられています。これについてはFolseは提示するだけで詳しく述べていませんが、例えばCollins Cobuild Advanced Learner's Dictionaryでlayを引くと、次のように書いてあります。

In informal English, people sometimes use the word lay instead of lie in those meanings.

つまり現在時制のlie(横たわる)の代わりにlay(~を横たえる)がしばしば使われているのです。これはlieの過去時制がlayであることから、日本でも混同されていますが、ネイティブもかなり曖昧に使っているうちに用法として辞書に載るまで確立されてきたようです。

最後の例以外は日本人学習者にはあまり当てはまらないと思います。ネイティブはネイティブで間違いを犯します。ネイティブもスペルを間違え、ネイティブも曖昧に使っていることがあるのです。当たり前です。ただし、最後の例のように確立した例はもはや新たな用法として考てよいと思います。正しさは時代とともに変化します。英語はさらにいろいろな国や地域でも変化していくのでしょう。


さて、世間はゴールデンウィークですが、私はひたすら部活です。良くも悪くも生徒に毎日会えるので、私も一緒に身体を追い込んでいきます!はぁ。


【参考文献】
Folse .S. Keith.(2009). Keys to Teaching Grammar to English Language Learners ーA Practical Handbookー. The University of Michigan Press.


gotかgottenかという小さい問題

2014-05-01 20:17:00 | 日記
今回取り上げるのは、getの過去分詞としてgotを用いるか、それともgottenを用いるかという問題についてです。教科書ではどちらも使われる、という記述で終わっていますが、どちらも等しく用いられる、というようなことは普通考えられません。つまりどちらが用いられるのかはある程度決まっている、といってよいでしょう。しかし、それは国(や地域)によって傾向をつかむことが大事だと思います。

非常に参考になるのは『オーレックス英和辞典(第2版)』のプラネットボードでしょう。次の文で、アメリカとイギリスでどのような違いがあるかを明らかにしてくれています。

(1)We have gotten to know each other very well.(僕らはお互いをよく知るようになってきた。)
(2)We have got to know each other very well.

これらの文でアメリカでは約7割の人が(1)のgottenを用いると回答し、イギリス人の約5割が(2)を用いると回答しています。またアメリカではどちらも用いられると回答したのが約2割(ただし後で述べるように、アメリカやカナダでは(2)は別の意味で解釈されるので実際には(1)だけが用いられる、といっても言い過ぎではないと思います)イギリスでどちらも用いられるとした人は3割近くを占めています。このことからイギリスでもgottenが用いられるようになってきてはいるが、まだ一般的なのはgotのほうである、といえるでしょう。

私自身、この問題については気になって調べてみたことがありますが、ほぼ上の結果と同じでした。もう少し詳しい話をすると、そもそもはgottenのほうが古い形らしく、アメリカではそのまま残っていましたが、イギリスではgotが用いられるようになったようです。しかし、アメリカ英語の影響で、最近はまたgottenもイギリスで用いられるようになってきているようです。また、イギリスではgottenを口語表現、あるいはスラングで用いる、という解釈をする人もいます。もうひとつ例を見てみましょう。次の例文は『総合英語Forest(第6版)』で用いられていた例文です。

(3)You should have got up at seven.(君は7時に起きるべきだったのに。)

先ほどの話からもわかるとおり、この例文はアメリカやカナダでは容認度が下がります。カナダ出身のネイティブスピーカーは自分は(3)は用いず、次の(4)が正しいと言っていました。

(4)You should have gotten up at seven.

一方、イギリス出身のネイティブによれば、(3)も(4)も同じように用いられるが、自分は(4)を使う、と言っていました。また、(4)のほうが口語的だ、とも述べていました。イギリスでも口語表現としてgottenが広まってきていることがうかがえます。しかし、この傾向がイギリス全体に当てはまるのかはわかりません。


私の結論としてはアメリカではほぼgottenが用いられ、イギリスではgotを用いることが多いが、口語表現としてgottenも用いられるようになってきている、ということです。


最後に(2)の例文に関して、アメリカでは(1)と同じ意味では解釈されません。プラネットボードでも述べられているとおり、この文は「私たちはお互いをよくしらなければならない」という意味で解釈されます。「have got to」はアメリカでもイギリスでも「have to」とほぼ同じ意味で使われます(正確には少し意味が異なります。このあたりの議論については柏野(2002)を参照されたい)。そこでアメリカではこのhave toの意味で解釈されるようです。また、プラネットボードではアメリカでは(2)のhave got toがhave toと解釈される、としていますが、実際にはイギリス人の中でも、(1)(2)の両方を容認する場合have toの意味で解釈する人も多いようです。プラネットボードで調査した例文が別の問題での混乱を招いているので、(1)や(2)の例文でインフォーマント調査するべきではなく、調査の仕方に少し改善の余地があるように思います。とはいえ、プラネットボードは個人的にかなり興味深いのでぜひ項目を増やしていってほしいものです。

このようなgotとgottenの問題は、指導の際は混乱を招くので特に言及する必要はないと思いますが、教師は指導に際して例文に配慮する必要があるでしょう。


【参考文献】
柏野健次.(2002).『英語助動詞の語法』.研究社.